【記事10162】原子炉地震対策小委員会第2次経過報告書(原子力委員会1958年6月15日)
 
参照元
原子炉地震対策小委員会第2次経過報告書

※引用者注:日にちに関しては、参照元に明記していないので、こちらで便宜的に15日と設定した。

原子炉地震対策小委員会第2次経過報告書

 この報告書は、各委員の意見により一応訂正したものであるが、正式には追って開かれる委員会において決定されることになる。

まえがき

原子炉地震対策小委員会

委員長 武藤清

  今回原子炉地震対策小委員会においては、前後2ヵ月にわたり、10回あまりの委員会と幹事会を開き、英国型動力炉の地震対策について第2次の研究検討を行ったので、その結果をここに報告する。
 本委員会は、本年6月英国型原子力発電所の耐震設計に関する予備的提案いわゆる仕様書草案の作成ならびに耐震研究のテーマとそのタイムテーブルを立案してから休会の状態であったが、その間仕様書草案に対する英国AEAの見解が寄せられ、また耐震実験も進捗したので、10月11日の原子力委員会決定によって、委員を増員し再活動に入ったのである。

一般的見解

 まず英国型原子力発電所の耐震問題についての一般的見解を述べたい。今日までしばしばコールダーホール型は地震に対して危険であるとの発言が耐震構造の専門家以外の人から発表されている。本当に危険なのかとの質問に対しては、コールダーホール型そのままでは安全とはいわれないと答えるであろう。
 しかしこれは原子炉にかぎったことではなく、建物であれ、工業施設であれ、地震のない英国その他の国々の構造物をそのまま日本に建てたのでは、地震に対して安全とはいわれない。たとえば、戦後日本に建設された輸入型新鋭火力発電所を見ても、英、米に建てられるものとはちがい、日本の耐震的要求に応じた変更が加えられてその安全が図られている。この耐震的改良の努力はつねに継続されて、つぎつぎと新設されるごとに合理化され、経済化されているのである。
 英国型原子力発電所についても同様で、日本に建てるものは、世上問題にされているグラファイト・パイルの部分ばかりではなく、熱交換器にしても、発変電設備にしても、すべて耐震的再設計が必要なのである。だからといってただちにそれが危険であると断ずるのはあたらない。機能的に耐震化が不可能な時に初めて危険だと判定されるであろうし、また経費の上でどうしても採算がとれないときに実用にならないと判定されるべきものである。
 本委員会では、純学術的立場から英国型原子力発電所の耐震化の問題について研究を進めたのであるが、以下に報告するように、細部について種々困難はあるにしても、一応耐震的には設計が可能であるという見通しを得るにいたったのである。

報告の総説

 本委員会は調査の進行を図るため新たに五つの研究班を設けて研究に当り、その資料を幹事会において検討し、委員会に移して審議することとした。その成果の概略は次に述べるとおりである。

1.地震、地盤、震力関係
 まず日本の地盤について過去の地震動の知識から、地震の頻度やその激しさおよび地震動の性質などを詳細に検討して、東海村に予想される新原子力発電所の建設の資料とし、さらにはまた将来全国に設置されるであろう発電所の敷地選定に役だてることとした。
 第2には東海村の地盤についてすでに行われたボーリングまたは弾性波調査の結果や原子力研究所で行っている実験結果を総合検討してその特性の研究を行った。発電所予定敷地の基礎は地表面から10mは砂層、ローム層であり、その下約15mは上下2層からなる砂れき層で、さらにその下は砂質泥岩になっている。基礎盤底面応力度は動力炉部分で約30t/m2と推定されるから、原子炉の基礎は下部砂れき層の上に直接乗せるのが適当であろうという意見が強かった。この場合、動力炉部分の沈下に対する長期地盤系数は約40〜100t/m2/cmになるとの数値も提示された。これらの点については具体的設計の場合に地耐力試験や振動試験を行って、静的、動的な特性をさらに確認することが必要である。
 第3には、東海村における地震動の検討が行われた。地震記録から見て東海村においては幸いにも最大級の地震のないことは予想される。またその地震動の特性は、表面砂層および地下の砂質泥岩では特定の卓越周期が顕著に現われないことが明らかにされた。砂れき層においては、まだ十分調査されていないが、これらの点も今後調査する必要があると思われる。

2.耐震実験関係
 ここでは、原子力研究所担当の耐震実験が検討された。
 英国型の耐震問題としては、それに関連した種々の問題があるが、特にグラファイト・パイルは特徴的であるので、グラファイト・パイルの耐震実験に重点が置かれた。しかしパイルの詳細が不明であるので、とりあえず基礎的な性質すなわち振動性、変形性、あるいはこれを安全に保持する耐震的方法などの研究が、建築研究所、東京大学工学部、早稲田大学理工学部において行われた。その概要は次のとおりである。
 建築研究所においてはコールダーホール型の構造を想定し、1/2縮尺のグラファイトブロックを使用して、小規模なパイルによって実験を行った。バンドでパイルをしめつけた密着構造では、全体が一体として作用し、水平力に対してかなりの抵抗力を示し、震度0.6程度の耐力を発揮した。しかしブロック間にすきまがある場合には、その耐震力は割合に低く、底面震度0.2ないし0.3でもおどり出すという結果になった。このことは、現在の英国型のグラファイト・パイル自体では大きな耐震力を期待できないことを示すものである。なお震動時にブロックが傾斜するとその角が欠けて損傷を起すようなことがあるので、ブロック・パイルの変形に対して十分の注意が必要であることが明ら かにされた。
 また別に、パイルについての静的加力試験を行ってその剛性、耐力を調べるとともにブロックとタイルをダボまたはクサビで止めて、一体としての強度を持たせることの可能性についても研究が行われ、ダボ、クサビの形状、耐力効果等に関する種々のデータが求められた。
 次に東大においては、約1/5縮尺の木造のブロックとタイルを使用してそのパイルを鋼製の容器の中に納めた場合にパイルが与える地震力の効果を自由振動、強制振動の両実験から検討した。その結果

a タンクの中に密にパイルをつめ込んだ場合には100%の質量効果をあげる。
b ブロック間に少しくすきまがある場合には100%以上の質量効果をあげる。
c すきまがさらに大きくなると逆に質量効果を減じ100%以下となる。

ことが確認された。
 実際にグラファイト・パイルを、その外周で補強した場合には、大きなすきまは考えられないので、質量効果としては100%あるいはこれを少しく割増しした120%程度を予想するのが適当であると類推される。
 早大における実験は1/5縮尺のせっこうブロック(タイルなし)をかご状の立体トラスの中につめて、静的、動的の実験を行った。パイルの周辺は間げきのあるもの、スポンジをつめたものおよび木片をつめたもので、実験の重点は外周の補強トラスに起る応力の解明におかれ、振動中にパイルから補強構造物に伝わる地震力は、その全部でなく、70%程度にとどまり、残りの地震力は、そのまま台に伝わることが明らかにされた。今後さらに、タイルがあるとき、ブロック間に間げきがあるとき、あるいは台の支持条件のちがうものについての検討が望まれる。

3.耐震設計関係
 この研究では、重点を動力炉の炉体すなわちグラファイト・パイルの耐震構造の研究におき、あわせてその外周の圧力容器、熱交換器、ダクト、パイプ等の問題を総合的に検討した。
 研究の方針としては、今後調査団が英国側と折衝する場合に英国側の提案の検討に即応することが必要であるので、あらゆる予想される場合に備えて多角的に研究を行うこととした。
 まず、グラファイト・パイルの耐震構造法としては、次の三つの観点から検討された。
 その第1は、グラファイト・パイル自身を一体に固め、地震力に対する剛性を与えようとする考案のもので、縦のホゾと水平のクサビの組合せによる自立式の組積法などはこの類である。この場合には、パイルに相当の剛性を与えることができるが、さらに他の補強法も併用する必要があるものと考えられる。
 第2は、グラファイト・パイル部分をつり鐘状につりさげ、必要があれば振動吸収装置を加えて、地震の作用を消す考案の類である。この方法は最新式火力発電所において採用が考慮されておるものであるが、これを原子炉に適用することは今回の英国への注文としては時期尚早とも考えられる。
 第3は、グラファイト・パイルの周辺を外側から固めようとするもので、パイルの外周に沿って補強体をおき、これによってグラファイト・パイルを安全に保持しようとするものである。この方法によれば英国の設計によるグラファイト・パイルに大きな変更を加える必要もなく、機能的にも問題を起さないと考えられるので、外周補強体としては、例として、内殻(銅製の円筒)およびかご状のトラスを用いた場合について数値計算を進めることにした。
 英国型の実用原子炉は、炉体3,000トン、圧力容器1,000トン、合計4,000トンの荷重があるので、これに働く巨大な水平力を支えるため、下部の支持構造物部にも十分注意を払う必要があり、この支持方法として円筒型の台を用いた場合およびごとく状の足を使用した場合について具体的に検討することにした。
 円筒型のシェルおよびスカートからなる構造とトラス型のかごおよび脚からなる構造との二つの方式に区分し、それぞれの地震応力、熱応力等を考慮し、計算を行い寸法を定めて設計した結果、シールド内の補強に要する鋼材量はいずれの場合も100トン程度となった。ただこの場合、グラファイトと補強構造体との取付方法、補強構造体に許される変形限度等については別に検討の必要がある。
 なお圧力容器およびグラファイト・パイルを支持する方法として、その頂部を直接周囲のコンクリート・シールドと連結する方法も検討され、その具体的方法が提案された。
 さらに発電プラント全般について考えると、熱交換器、ダクト、スタンド・パイプ、その他についても種々の問題がある。これらは火力発電所の耐震設計におけると同様の注意が必要である。

4.構造資料関係
 ここでは原子力発電所の構造に関する資料の収集、調査を行うこととし、コールダーホールを初め改良型の全般について、その施工法あるいはダクト、機械設備、熱交換器、建屋関係、基礎等全般にわたり、各型の比較検討を行った。

5.仕様書関係
 さきに本年6月、英国側に Preliminary Proposal として耐震設計の要求を提出したが、それに対する見解が UK AEA から9月に届いた。その内容は、英国側において耐震設計をするために使った地震力および許容応力度等のデータを日本の提案と比較してみるとほとんど同等の要求であるので、改良型は十分に耐震力のあることを述べ、その結論として、適当な耐震的再設計をすることによって十分安全な発電所の設計、建設の可能性の確信を披瀝している。
 本委員会では、これを検討して、返書を作成した。
 なお、さきの Preliminary Proposal を再検討した結果、報告書に述べるような補足提案書(Supplementary Requirement)を作成した。この提案書のうちには、英国の技術者との耐震に関する共同設計を強く要望してある。原子力委員会よりこれらを AEA に送付されることを希望する。
 以上のごとく本委員会においては原子力発電所建設に必要な耐震上の諸問題を客観的、多角的に検討し、遭遇するあらゆる場合につき広範囲に検討を行った。今後訪英調査団が英国側と折衝する場合にも、これらの資料を検討し、遺憾のないよう取り計らわれんことを要望するものである。

第1章 委員会の今回の目的、構成および経過

1.1 今回の研究、検討の目的
 今回、前後2ヵ月にわたって開かれた本委員会の目的は、次のような10月11日の原子力委員会決定によるものである。

原子炉地震対策小委員会の改組について

 標記小委員会は、英国型動力炉に対する予備的仕様書草案の作成と耐震実験テーマおよびその time tableを立案して以来休会の状態であったところ、仕様書に対する英国 AEA の一応の見解も公表され、また耐震実験も進捗しつつあるが、今回新会社より派遣を予定される第2次調査団は約1ヵ月後に出発されることが考えられるので、その後の情勢を勘案し、委員を増加して英国型動力炉の地震対策に関し早急に問題点の集約を行うものとする。

1.2 構成

 委員会の構成は次のとおりである。(○印は今回の追加委員を示す)

委員長 武藤清  東京大学(工学部)教授
    ○仲威雄     〃
     那須信治 東京大学地震研究所長
     谷口忠   東京工業大学 教授
     内藤多仲 早稲田大学名誉教授
    ○棚橋諒   京都大学(工学部)教授
    ○馬場善雄  大阪大学(工学部)助教授
     竹山謙三郎 建 築 研 究 所 長
     川村泰治 電源開発(株)原子力室付
     川畑整理 日本原子力研究所建設部次長
     前田一雄 中部電力(株)原子力課長
    ○一本松珠き 関西電力(株)常務取締役
     吉岡俊男   〃   原子力部長
     神谷貞吉 電力中央研究所技術研究所土木部長
     若林良一 東京芝浦電気(株)鶴見研究所原子力研究課長
     松本政吉 (株)日立製作所日立工場原子力開発部副部長
     前沢芳一 三菱電機(株)原子力技術課長
     園田晋  昭和電工(株)企画部次長(兼)原子力課長
     大築志夫 清水建設(株)研究部
     甲野繁夫 鹿島建設(株)原子力室長代理
    ○管田豊重 (株)大林組研究部次長
     嵯峨根遼吉 日本原子力研究所 副理事長
     久布白兼政    〃    理  事
     小林貞雄 日本原子力産業会議企画部長

委員長から幹事に委嘱された者は、次のとおりである。

     梅村魁  東京大学(工学部)助教授
     竹内盛雄 早稲田大学(第一理工学部)教授
     小堀鐸二 京都大学(工学部)助教授
     久田俊彦 建築研究所第三研究部長
     小野宏治 関西電力(株) 建築課
     竹山宏    〃   原子力部
     弘田実弥 日本原子力研究所 動力炉準備室
     望月恵一       〃
     秋野金次       〃
     椹富彦       〃

また原子力局からは主として次の諸氏が出席した。

     法貴四郎 原子力局次長
     加世田昇   〃  調査課

1.3 調査の分担
 委員会においては、耐震方策の研究、仕様書関係の検討ならびに資料の作成を早急に能率的に行うため、次のように研究班を編成して、各班において研究調査の基礎資料を作成し、幹事会で検討の上、これを委員会で審議することとした。これらの概要は第2章ないし第6章に述べるとおりである。

(中略)

第2章 地震、地盤、震力に関する調査

2.1 日本における建物に震害を受けた度数の分布(資料1−1−1)
 大日本地震史料、震災予防調査会報告、地震研究所彙報、気象要覧、建築雑誌等から本邦における破壊的地震による地域的被害分布を調査したものである。調査方法はまず日本地図の中に緯度、経度とも10′間隔の線を引き、一つの地震で、網目の区域に1箇所でも震害を受けた記録があれば、その網目に1点を与える。
 この作業を年代別に4期に区分して行った。その間の地震回数を列記すれば、第1期599〜1191年(地震回数29回)、第2期1192〜1687年(地震回数51回)、第3期1688〜1871年(地震回数51回)、第4期1872〜1948年(地震回数35回)である。
 第1期(599〜1191年)は史料が不十分であり、京都を中心とする近畿地方が特にたびたび被害を受け、第2期は鎌倉付近の被害が増している。これは政治文化の中心に古記録が偏在する結果である。そこで特に史料不備な第1期を除き第2期(1192年)以降第4期の終り(1948年)に至る間の137回の地震についてその被害を調べた。ただし第4期については被害1%以上のものをとった。その結果、被害の生ずるところはいわゆる軟弱地盤地域が著しく、特に東海道筋から近畿地方に及ぶ地帯に被害を受けた度数が多い。これに反し、茨城県および福島県の東部には被害を受けたことがない。すなわち、東海村はこの無被害地域中にあり、過去の地震回数統計からは安全地域内にある。

2.2 日本における大地震の震動記録(資料1-1-2)
 日本における強震の器械観測は明治の中ごろから行われてきたが、強震計として性能の不備のため完全な記録はとれていない。
 大正12年関東大地震の記録もその例であるが、従来強震計として低倍率(5倍程度)ではや回し(open-time scale)の器械で変位を記録した地震記象には工学上参考になるものもある。
 関東大地震の主要動の初めは今村博士によれば全振幅約9cm、周期1.3secであり、これを simple hermonic motion と仮定すれば震度は約0.1gとなる。N.S.-component の描針が記録紙から脱出したのみならず、E.W.-component は地動があまり大きすぎたので振子は振幅制限装置に衝突して実際の地動が記録されなかった。しかしこの記録は貴重なものであるが、工学上要求する地動の性質を十分示していると思われない。
 他の長周期地震計も完全な記録を与えていないが、注目すべき点は地震の最初から17cmの変位を示していることである。これは大地震の際土地の傾斜運動も考えられるから、この影響をある程度受けたかも知れないが、短周期の地動を記録するにはさしつかえない。この震動の加速度は周期を4.9sec とすればわずかに15gal(約0.015g)である。
 この震動に続くものもかなり大きな振幅を有していたことは他の記録を見てもわかる。すなわち、円板上に書かれた旧式の記録(倍率1倍)では振幅40cmにも及ぶ波動が記録されている。これは地震動により地震計の振子が自己振動をやり、次第に振幅を増大したためであり、相当大きな振幅の地動が繰り返されたことは確かである。
 また昭和5年11月の北伊豆地震の際、東京において15cmの全振幅を記録したことなどから、大地震の際は相当大きな変位があることは否定できない。
 上記旧式の円板記録上(関東大地震)の波動中にはその振動加速度が120gal(≒0.12g)程度に達しているものと認められ、また権威ある工学者は体験からこの程度以上の震動があったことを記述している。
 Open−time scale の強震計記象は大正13年1月15日の関東大地震の余震(震央は丹沢山付近)のときにも本郷で取られている。
 この記録上で短周期の0.3〜0.4secの波動には計算によりその加速度が100galを越すものもある。なお茨城県下に起った強震の open−time scale の記録を集めて見ると、大正10年(1921年)12月8日の竜ヶ崎付近の地震および大正12年1月14日の関宿付近の地震のものがある。これらの記象上でも短周期の地動加速度は変位の大きい比較的長期の波動よりも大きいことが明らかである。
 地震動の最大加速度およびその周期を与える波動は変位の主要部ではなく、比較的長周期でかつ大振幅の地動に superpose している secondary の波動である。通常の変位地震計の記象から特に近地地震の場合 simple hermonic の仮定に従って加速度を求めることは、不可能とまではいかないがすこぶる困難である。大振動の場合、短周期のsecondary wave は大振幅のためにかくれてしまう。それゆえ、強震の加速度を求めるには最近考案されたSMACの強震計等の独特な地震計が有効である。

(後略)



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