[2019_06_18_06]いま福島第一原発で起きている困難な問題 汚染水対策や排気筒解体などで何が起きているか 原因は「計測ミス」「クレーンの高さが1.6m足りない」 排気筒解体工事延期 山崎久隆(たんぽぽ舎副代表)(たんぽぽ舎2019年6月18日)
 
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いま福島第一原発で起きている困難な問題 汚染水対策や排気筒解体などで何が起きているか 原因は「計測ミス」「クレーンの高さが1.6m足りない」 排気筒解体工事延期 山崎久隆(たんぽぽ舎副代表)


1.原因は「計測ミス」「クレーンの高さが1.6m足りない」 排気筒解体工事延期

 最近の国家公務員のレベル低下は目に余る。その際たるものは、責任を取らないことと、それが問われないこと。
 よほどのことがない限り、何をしても結果的にクビになることはない。いや、高級官僚ほど、国会で堂々とウソを突き通しても処分どころか、出世してしまう。ヒラの公務員は、例え駐車違反程度でも処分される。もちろん法令違反を犯せば処分するべきだが、あまりにもバランスを欠く。
 公務員に劣らず現在の東電の責任者も、あまりに無責任といわなければならない。
 福島第一原発の危険は数多くあるが、その一つは排気筒。危険性としては第一級だ。
 1・2号機と3・4号機の間にそれぞれ一基ずつある排気筒は、高さ120m。特に1・2号機側の内部が極めて高濃度に汚染され、周辺環境の放射線量を引き上げている。
 これが地震などで倒壊した場合、大量の放射性物質を拡散させ、敷地内はもとより遠い地域にも放射性物質を再拡散させる。
 高さ51m付近の線量でも、排気筒から5mの距離で約1mSv、35m付近では約7mの距離で1.5mSvにも達している。(いずれも毎時)
 さらに、事故後の調査では、排気筒を支える鉄骨組の柱に破断箇所が多数見つかり、腐食も進んでいた。東電は基準地震動に基づく耐震評価をおこなった結果、倒壊の危険はないと繰り返しているが、もとより近づけないため構造材の強度計算を精密におこなえないのだから、希望的観測に過ぎない。この解体撤去工程が大きく遅れているという。
 その原因は「計測ミス」。もともと排気筒解体は、難しい工事になることが分かっていた。
 汚染が酷いので、人が近寄れず、解体はもっぱら遠隔操作でおこなわれる。
 ただし、このような解体工事は、同じく汚染されていることが多い清掃工場の煙突解体でもおこなわれるから、世界で唯一というわけではない。
 例えば、目黒清掃工場(東京都目黒区三田)は、全体が150mの高さの煙突を解体したが、外壁はコンクリート製で内胴は鋼鉄製と、福島第一原発よりももっと強固で大きな構造を上から崩していった。これは遠隔操作ではない。
 福島第一原発で「困難」とされるのは、もっぱら遠隔操作の部分である。それでも福島第一原発事故全体でいえば、むしろ優しい部類に属する工事だろう。
 だから私は、もっと早くに着手すべきと繰り返し東電に意見を述べてきたのだが、これまで実現しなかった。
 遠隔操作をおこなうに当たり、福島第一原発の敷地内にモックアップ試験装置を作り、遠隔操作の試験を繰り返した。
 予定では5月に解体工事に着工しているはずだったが、なんと「クレーンの高さが1.6m足りない」との理由で7月まで延期された。それだって本当に始められるのか、それもわからない。
 このような失態を演じた責任をはっきりさせるべきである。

2.地下水のコントロールは可能か 建屋の地下水と雨水の侵入口を全て塞ぐことが先決だが進んでいない

 世界で炉心溶融を起こした商業原発は3つ。1979年の米国スリーマイル島原発(TMI)と1986年のチェルノブイリ原発、そして2011年の東電福島第一原発。
 福島第一原発の特徴としては、溶けた燃料が常時水に浸かっていて冷却水が格納容器外に流れ出していることだ。
 TMIは同じく水を使っているとはいえ、圧力容器や配管に穴は空いていないので、密封されていて外にはでていない。チェルノブイリは炉心燃料はデブリとなり建屋内部に残ったままだが水で冷やされてはいない。
 福島第一原発は、水で冷やしているだけでなく、建屋も格納容器も破損し、汚染水と地下水が混じり合う環境のままだ。
 これを解消しなければ、汚染水の管理は出来ない。すなわち「アンダーコントロール」などとは言えないのである。
 東京電力は3つの方法で地下水の建屋侵入を防いでいる。
 1つ目は原子炉建屋のある「10m盤」よりも高い位置の「35m盤」に井戸を12本掘り、汲み上げて排水している「地下水バイパス」。
 2つ目は建屋の周り約1571mの長さに236本の配管を打ち込んで凍結材を流し、地下30mまで凍らせた「凍土壁」。
 3つ目は凍土壁の内側で建屋のすぐ近くにある井戸から水を汲み上げて排水する「サブドレン」。
 これらを駆動させることで、地下水量をコントロールしているということになっている。
 汚染水を増やさないようにするには地下水の浸入を防止し、デブリ冷却用の水は循環させることが必須だ。
 東電が作成し、ホームページに掲載されている英文の説明には、今もそのようなことが記載されている。そのためには建屋の地下水と雨水の侵入口を全て塞ぐことが先決だが、進んでいない。

3.「凍土壁」英文説明のウソ 1日に250トンもの地下水が流れ込む理由は地下構造物周囲が全面凍結していないから

 日本語の文書には、侵入する地下水も汚染水もゼロにするとは書かれていない。
 例えば2019年5月14日付けの「福島第一原子力発電所の汚染水処理対策の状況」には、「2020年内に汚染水発生量を150立法メートル/日程度に抑制する」との「目標」が書かれている。
 英文の説明文「Questions on the "Land-side Impermeable Wall (Frozen Soil Wall)"」(陸側凍土遮水壁についての質問)では、「2020年までに達成すべき目標としては、第一原発建屋に流れ込む水をすべて止めること。」と、日本語とは全く異なる内容が記載されている。
 さらに、地下の障害物回避方法については「図面を精査し試験穿孔や現場での評価など、さまざまな対策を講じます。また、冷却剤の配管の配置を調整しなければなりませんが、回避できない場合は水密シールを使用して既存の配水管を貫通することさえあります。」とも記述している。
 事実は、トレンチを貫通する工法は安全性に問題があることなどから取りやめ、冷却管はトレンチの上で止まっていて、その下には広大な非凍結部分がある。その面積は凍土壁に対し1.1%にも相当するという。
 非凍結部の多くは海に面した凍土壁にあるが、一部は内陸側にもあり、総合して次のように書かれている。
 「陸側遮水壁内側への地下水等供給量を計算すると、2019年1月〜3月時点で約250立方メートル/日と算定されるが、これはK排水路など陸側遮水壁を横断している地下構造物の影響により、一定量の水が供給されていることによるものと考えている。」
(「福島第一原子力発電所の汚染水処理対策の状況」より)

 1日に250トン(標準的な小学校用プール半分程度)もの地下水が流れ込む理由は、地下構造物周囲が全面凍結していないからである。そのことを東電は、英文の説明においてウソを書いていることになる。  (初出:6/15「山崎ゼミ」資料より一部転載)

4.降雨と汚染水 建屋を覆う屋根を造り地面を舗装すれば、地下水以外の浸水を防止出来る

 雨が降れば汚染水は増える。一見当たり前に見え、本来すべき対策を放棄した結果である。
 雨は上から降るのだから、建屋と凍土壁内側の敷地の上空を遮れば良いことくらい子どもにも分かる。
 例えば、チェルノブイリ原発では大屋根で全体を覆った。同様に福島第一原発でも1号機から4号機の上に屋根を掛ければ、少なくても降水の侵入は防げる。
 ところが、この計画を検討した形跡がない。テント状のもので覆うと内部の大気中放射性物質濃度が上がって作業性が悪くなるなどと考えているのかも知れないが、それならば横を開けられるようにし、雨が降っていない時は空気の流路を確保すれば良い。
 また、竜巻のような気象災害が怖いならば、例え飛ばされても建屋に影響を与えない軽い構造にすればいい。
 敷地内の舗装工事はおこなわれているが、完了する予定は「福島第一原子力発電所の汚染水処理対策の状況」には明記されていない。
 陸側凍土遮水壁の内側ほど、進んでいない。おそらく作業区画が排気筒撤去作業との取り合いになっているのであろう。このようなものこそ早く進めるべきだった。
 舗装工事は遠隔操作が容易だ。平面作業でありGPSで移動制御が出来る。細いラインを精密に走らなければならない田植作業が自動運転で出来る時代だ。
 建屋を覆う屋根を造り、地面を舗装すれば、地下水以外の浸水を防止出来るのに優先しておこなっていない。東電経営陣のやる気のなさと責任放棄の証拠である。

5.3号機燃料移送遅れ 信号伝送ケーブルが腐食により破断

 福島第一原発の危険はデブリだけではない。使用済燃料プールに残ったままの燃料は、水に浸かったまま8年あまりも十分な安全管理も出来ないままになっている。
 4号機の燃料体だけは既に共用プールに移送されているが、1〜3号機については見通しが立っていない。
 そのうち、3号機だけは、昨年中に取り出し作業が開始されるはずだった。
 しかしこちらもまた、信じがたい低レベルのミスで移送作業が止まった。
 3号機のオペレーション・フロアは、4号機と異なり、真下で炉心溶融を起こした燃料体からの放射線が高すぎて、人が入って作業をすることが出来ない。
 そのため機器類の設置後は無人で遠隔操作をおこなうことになっている。
 そのための設備や機器類は既に設置され、離れた場所からの遠隔操作で燃料を吊り上げ、プール内で容器に入れて蓋を閉め、さらに容器を吊り上げて地上まで降ろす算段になっている。
 ところが肝心の移送装置などをコントロールするための信号伝送ケーブルが腐食により破断し、移送作業が止まってしまった。
 ケーブルコネクタの形状や設置場所が、雨水の影響を受けたために、ケーブルが腐食して断線したという。
 繰り返すが、厳しい環境なので全面的な遠隔操作に頼るほかない作業に、その要の装置を駆動するケーブルが作動不良を起こしたのである。
 なぜ緊張感のかけらも無いトラブルを引き起こすのか、そしてその責任の所在は何処にあるのか。
 万一、作業が最盛期の段階でケーブルが破断し、モニターの映像も来なくなれば、もはや何が起きているかすら分からなくなる。
 事故によっては、大量の放射線を発散させる危険もある。そのような現場だということに緊張感があるのならば、信号系や駆動系は当然のこととして独立多重化をするであろう。そういった対策も取られていなかった。
 対策としては腐食したコネクタを別の設計のものと取り替えると共に、接続部が腐食するようなことがないように敷設地点を変更したという。とても十分などと言えない。

※「オペレーション・フロア」について…山崎久隆
 原発のうち沸騰水型軽水炉の場合で、原子炉建屋の最上階に位置し、圧力容器や格納容器の上に位置するフロア。
 使用済燃料プール、機器仮置場があり、燃料交換装置が設置されている。
 定期検査時には格納容器と圧力容器の蓋を外して機器仮置き場に置き、燃料交換や各種メンテナンス作業を行う場である。
 運転中も立ち入ることが出来る空間である。

6.2号機のオペレーション・フロアは放射線量が高くとうてい人が立ち入れるところではない

 1〜3号機の使用済燃料プールが溶融炉心の真上にあるため、作業環境が極めて悪いことは福島第一原発の危険を端的に表している。
 2号機では燃料取り出し作業の準備段階として、オペレーション・フロアの残置物移動と片付けを行い、その後に放射線量調査とガンマカメラ等による三次元投影画像の作成をおこなった。
 結果は惨憺たるもの。最も高い原子炉直上の「ウエル上」は、100mSv/時を大きく超える値が観測されている。
 1分も経たずに一般人の年間線量を超えるばかりか、数分で作業被曝の年間上限値も超える値だ。人が立ち入れるところではない。
 その他のオペレーション・フロア各地点の汚染値も極めて高い。
(了)


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