【記事70810】原発事故刑事裁判 専門家 地震発生確率予測「根拠ない」(NHK2018年6月12日)
 
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原発事故刑事裁判 専門家 地震発生確率予測「根拠ない」

 福島第一原発の事故をめぐり東京電力の旧経営陣3人が強制的に起訴された裁判で、事故の9年前に国の機関が公表した福島県沖を含む地震の発生確率の予測について、津波工学の専門家が「根拠がなく専門家の間でも信頼性について議論が分かれていた」と述べ、被告側の主張に沿う証言をしました。
 東京電力の元会長の勝俣恒久被告(78)、元副社長の武黒一郎被告(72)、元副社長の武藤栄被告(67)の3人は、原発事故をめぐって業務上過失致死傷の罪で強制的に起訴され、無罪を主張しています。
 東京地方裁判所では12日、津波工学の専門家で東北大学の今村文彦教授が証言しました。
 東京電力は、平成14年に政府の地震調査研究推進本部が公表した、福島県沖を含む三陸沖から房総沖にかけて、30年以内に20%の確率で巨大地震が発生するという「長期評価」の予測を津波の対策に取り入れるかどうか、今村氏に意見を求めていました。
 今村氏は法廷で、三陸沖から房総沖までの地殻構造は場所によって異なるのに長期評価では一律に扱われていたという認識を示したうえで、長期評価の信頼性について「根拠がなく違和感を覚えた。福島県沖で津波が来た痕跡はなかった」と述べ、信頼性は低かったという考えを示しました。
 そのうえで、「専門家の間でも信頼性について議論が分かれていた」と述べ、被告側の主張に沿う証言をしました。
 これまでの審理では、地震の専門家2人が「長期評価」は信頼できると指摘していて、今村氏の証言はこれまでとは逆の認識が示されたことになります。

対策の必要性で分かれる専門家の見解
 福島県沖でも、大津波を伴う地震を想定することができたのか。
 裁判では、政府の地震調査研究推進本部が示した「長期評価」の信頼性をめぐり、専門家による考え方の違いが浮き彫りになりました。
 平成14年に示された「長期評価」は、福島県沖を含む三陸沖から房総沖のどこでも大津波を伴う地震が起きるとし、東京電力は、この長期評価を福島第一原発の津波対策に取り入れるべきかどうか検討を行っていました。
 これについて、先月、法廷で証言した元・日本地震学会の会長で地震調査研究推進本部の委員も務めた島崎邦彦東京大学名誉教授は、三陸沖から房総沖までの日本海溝では、海側の太平洋プレートが陸側のプレートの下に潜り込む構造をしているので、この領域ではどこでも同じような地震が起き、大きな津波が発生する可能性があると述べました。
 そのうえで、「大きな津波が3回起きたことは歴史的事実だ」と述べ、「長期評価」は信頼できるものだったと強調しました。
 さらに、島崎名誉教授は「今まで地震が起きていないからといって都合よく福島県沖だけ起きないということはない。地震が起きるべきところで400年間起きていないのは次に起きるということで、地震が起きていないというのも重要な情報だ」と証言し、「長期評価」に基づいて対策を取っていれば原発事故は起きなかったという考えを示しました。
 一方、12日の法廷で証言した津波研究の第一人者、今村文彦東北大学教授は、長期評価について、日本海溝沿いの領域は、北部と南部で海底の構造が違うと指摘する論文があったとして、「どこでも大津波を伴う地震が発生するという根拠は示されておらず、違和感を感じた」と述べました。
 また、今村教授は、長期評価を津波対策に取り入れるべきかどうか東京電力に意見を求められていたことについては、「福島県沖で大きな津波が起きた痕跡はなかったので、調査をする必要があると強く感じていた」としましたが、対策を取るべきだとは考えられなかったと述べました。
 そのうえで、東京電力が津波対策を保留して、専門の学会に検討を依頼する方針を示したことについて「妥当だと考えていた。切迫性は感じていなかった」と証言し、原発事故の前に福島沖で大津波を想定し、対策を取ることは難しかったという認識を示しました。


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