【記事70276】詳報 東電刑事裁判 「原発事故の真相は」 第12回公判(NHK2018年5月29日)
 
参照元
詳報 東電刑事裁判 「原発事故の真相は」 第12回公判

 前回、福島第一原発の事故は防げたと証言した地震学の第一人者。この日の法廷では、被告側の弁護団から、繰り返し根拠を問われました。
 20日ぶりに開かれた12回目の審理。前回に続いて、日本地震学会の会長などを歴任し、原子力規制委員会の委員も務めた島崎邦彦氏が証言に立ちました。
 島崎氏は、かつて、政府の地震調査研究推進本部の専門家の部会で、地震の発生確率などを推計し、「長期評価」として取りまとめていました。
 平成14年の「長期評価」では、福島県沖を含む三陸沖から房総沖にかけての領域で30年以内に20%の確率でマグニチュード8クラスの巨大地震が発生するとされました。その根拠は、同じ領域で過去に起きた津波を伴う地震の回数などでした。
 前回の法廷で、島崎氏は、「『長期評価』に基づいて対策をとっていれば、何人もの命が救われ、原発事故も起きなかった」と述べ、注目を集めました。
 一方で、被告側の元会長など3人は、「『長期評価』には専門家の間で異論があった」として、その信頼性を争っています。
 この日の法廷では、被告側の弁護団から、島崎氏の証言に十分な根拠があったのか、細かく尋ねる質問が相次ぎました。
 弁護団は、「長期評価」をとりまとめた地震調査研究推進本部の部会の議事録を取り上げました。議事録には、島崎氏が、「過去に1度しか起きていない地震をどう評価すべきか知恵を出してくれ」と発言したことが記されていました。弁護団は、「証人(島崎氏)も過去の地震をどう扱うか悩んでいたのではないか」と質問しました。
 これに対して島崎氏は、「私自身の考えはあったが、地震の評価については皆で議論すべきだと考えていた」と答え、弁護団の見方を否定しました。
 また、弁護団は、島崎氏が「歴史上の地震の研究には不十分な点がある」などと発言していたとして、「島崎氏も歴史上の地震のことはよく分からないというのが本音だったのではないか」と指摘しました。
 しかし島崎氏は、「自分自身は一般の地震学者よりは詳しかったが、研究者の間に情報が行き渡っていないのが問題だと感じていた」と答えました。その上で、「歴史上の地震について研究に不十分な点があるとしても、実際に大津波が東北地方を襲っていた事実は重い」として、改めて「長期評価」は妥当だったと述べました。
 さらに、「私の発言の隅々まで問題になっているが、それは、文字にすると雑に見えるだけで、なるべくざっくばらんに話し合える場を作ることを心がけていた」と証言しました。
 2日間にわたる証言では、「長期評価」を取りまとめた本人が、信頼できる内容だったと強調し、対策に取り入れなかった東京電力の対応に疑問を投げかけました。
 今後の裁判では、島崎氏とは別の地震の専門家も証人として呼ばれる予定で、「長期評価」をどう扱うべきだったかが裁判の大きな焦点となりそうです。


KEY_WORD:FUKU1_: