【記事52660】国と東電に責任 3855万円賠償命令 原発訴訟で前橋地裁(上毛新聞2017年3月18日)
 
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国と東電に責任 3855万円賠償命令 原発訴訟で前橋地裁

 東京電力福島第1原発事故で福島県から群馬県などに避難した住民ら45世帯137人が東電と国に計15億0700万円の損害賠償を求めた訴訟の判決言い渡しが17日、前橋地裁であった。原道子裁判長は「巨大津波は予見でき、対策をすれば事故は防げた」とし、同事故を巡る集団訴訟で初めて東電と国に賠償責任を認め、計3855万円の支払いを命じた。全国で約30件ある同種訴訟にも影響しそうだ。

◎裁判長「津波予見できた」
 原裁判長は判決で、「福島沖を含む日本海溝沿いでマグニチュード8級の津波地震が30年以内に20%程度の確率で発生する」とした政府の長期評価を受け、東電は遅くとも2002年には巨大津波を予見できたと認定した。期間、費用面から対策は容易だったとし、「安全よりも経済的合理性を優先させた。特に非難に値する」と指摘した。
 国については、東電の自主的な津波対策が期待できない中で、国の規制権限を行使しなかったことは「著しく合理性を欠く」と批判した。「賠償すべき額は東電と同等だ」とした。
 放射性物質を恐れず、平穏に生活する権利を侵されたとして、原告のうち62人に賠償が認められた。個別の事情を基に1人7万〜350万円を算出。既に東電から支払われた慰謝料で十分とみなされた原告は、賠償が認められなかった。
 原告側弁護団は「実質的に国と東電の『過失』を認めた判決」と受け止め、閉廷後、地裁前で「一部勝訴」と記した垂れ幕を掲げた。団長の鈴木克昌弁護士は会見で「国の責任を正面からはっきり認めた意義は非常に大きい。原告一人一人の経緯や事情によって金額を個別判断した点は評価に値する」とした。
 一方で、賠償総額が請求額の2%にとどまる点や、賠償を認められなかった原告もいる点を挙げ、「控訴するか、原告一人一人と十分に協議する」とした。
 同種訴訟の原告らでつくる原発被害者訴訟原告団全国連絡会の村田弘共同代表は「国の責任を認め、全国の訴訟にとって軌跡になる判決。賠償額は満足いかない。他の訴訟で被害の実相をしっかり立証したい」と冷静に捉えた。
 東電は「原発事故で福島県民をはじめ皆さまに迷惑と心配をお掛けした。改めて心からおわびする。判決内容を精査して対応を検討する」とコメントした。
 原告らは「生活基盤を失い、慣れない土地で精神的苦痛を受けた」と訴え、1人当たり1100万円の慰謝料などを求めていた。

《解説》原発、向き合う必要
 「絶対に過酷な事故を避けなければならない原子力発電所」(訴状)を稼働させ、事故が起きた場合、責めを負うのは誰なのか。世界最悪レベルとされる東京電力福島第1原発事故について、17日の前橋地裁判決は国、東電ともに責任があると初めて認めた。
 判決は、無過失責任である原子力損害賠償法の適用に当たり、慰謝料算定の考慮要素として、東電には事故の予見可能性と結果回避可能性があったとした。過失は実質的に認められた。
 国に対しては、規制権限を行使すれば事故は防げたと指摘。東電と責任の重さは同様とし、国家賠償法上の過失を認めた。「国策として推進し、国の規制や監督の基に東電が操業した」との原告側の訴えを、受け入れる形となった。
 慰謝料は、計15億0700万円の請求のうち、認められたのは計3855万円。原告側弁護団は「非常に厳しい額」と評価した。
 それぞれの金額は、原告の年齢や職業、避難経緯など、個別の事情を基に算出された。今回とは別の、裁判外紛争解決手続き(ADR)などでも個別の事情が考慮されることへの好影響が期待される半面、原発事故という経験のない「人災」に対する救済手法が、現状のままで良いのかという疑問もある。
 訴訟は、原発事故で福島県から避難せざるを得ない人が、本県にいたことが始まりだった。全国初の判決は、原発になじみが薄い群馬県民も、その在り方に向き合う必要があると訴え掛けている。(報道部・五十嵐啓介)

◎早期決着に強い意欲 前橋地裁・原裁判長
 東京電力福島第1原発事故の避難者らが東電と国に損害賠償を求めて前橋地裁に起こした訴訟は、提訴から3年半で判決を迎えた。全国で相次いだ同種の集団訴訟のうち群馬県の提訴は9番目だが、判決は最も早かった。原道子裁判長(59)は審理を長引かせないことに強い意欲を示していた。
 原裁判長は今回の訴訟で福島県の原告宅を視察。昨年6月24日の口頭弁論では、さらなる審理を求めた国に対し、「天変地異がない限り10月31日に結審する」と断言した。
 原告側弁護団は「被害者救済はスピードが大切。これだけの大型訴訟で裁判長が代わらなかったことは珍しく、早期判決にも影響した」と指摘した。
 原裁判長は神奈川県出身。名古屋地裁判事、東京地裁判事などを経て2013年3月に前橋地裁に赴任した。桐生市で自殺した小6女児の両親が市と県に損害賠償を求めた裁判を担当し、14年に母親側の主張を認めて賠償を命じた。

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