【記事80310】<女川2号機再稼動 施策を問う>(1)地元同意/トップ冷淡 議論停滞(河北新報2019年1月20日)
 
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<女川2号機再稼動 施策を問う>(1)地元同意/トップ冷淡 議論停滞

 東北電力女川原発2号機(宮城県女川町、石巻市)が再稼働に向けた重要局面を迎えている。再稼働を審査する原子力規制委員会が年内に「合格」を出す可能性が大きい。東京電力福島第1原発事故で甚大な被害を受け、今なお影響が続く東北で初めて現実味を帯びる再稼働。住民の疑問や不安を解消し、安全性を保障する施策は十分か。宮城の現状を報告する。(報道部・高橋鉄男)

【地図】女川原発5km圏と30km圏

 2016年3月、開催自体が秘匿された会合が仙台市であった。河北新報社の情報公開請求によって存在が明るみに出た会合の中身は、県政トップ直々の女川2号機再稼働に向けた地ならしだった。

<「OKになる」>

 入手した議事録によると、女川原発30キロ圏の緊急防護措置区域(UPZ)に入る登米、東松島、涌谷、美里、南三陸の5市町長らを前に村井嘉浩知事が「マスコミがいない所で本音で話したい」と切り出し、こう述べた。
 「(東北電による安全対策)工事が完了した後、国が再稼働して良いかと宮城県に対し同意を求める。それは文章になく、根拠もない。国が一応聞いてきて、私がOKですと言ったらOKということになる」
 当時、村井知事は再稼働の前提となる地元同意の範囲について「県と立地市町の判断で十分」と発言。東北電と安全協定を結んだばかりの周辺5市町の反発を招いていた。
 会合の出席者は「『同意は立地で十分。最後は自分が決める』とはっきりさせたかったのだろう」と振り返る。
 国は福島第1原発事故の被害が広範囲に及んだ教訓から、原発30キロ圏の自治体にも避難計画の策定を義務付けた。一方、これまでに再稼働した5原発がある鹿児島、福井、愛媛、佐賀の4県は、地元同意の範囲を県と立地自治体に限った。
 再稼働の重要なステップとなる地元同意に、法的な定めはない。国のエネルギー基本計画は「立地自治体などの理解と協力を得るよう取り組む」と記すだけだ。根拠のない「慣例」が踏襲され続けている。

<首長に温度差>

 村井知事は「県内首長の意向も聞く」と言うが、4県と同様「慣例」に従う考えを隠さない。
 日本原子力発電東海第2原発(茨城県)を巡り昨年3月、実質的な地元同意となる「事前了解権」が従来の東海村から、周辺自治体の要求を受け30キロ圏の5市まで広がった。村井知事は直後の定例記者会見で「直ちに全国右倣えでは決してない」と打ち消した。
 周辺市町の足並みもそろっていない。
 美里町に事務局を置く5市町の住民団体「女川原発UPZ住民の会」は昨年6〜11月、同意範囲拡大を市町に要望。美里町は「継続協議に努める」と回答したが、他は「国が判断すべきだ」(東松島市)「申し入れがあったことは県に伝える」(登米市、涌谷町、南三陸町)と素っ気なかった。
 5市町が原発を巡る協議の場とする首長会議は、17年7月の非公式の懇談会を最後に開催されてこなかった。相沢清一美里町長は「開催を働き掛けても、温度差があって同じテーブルに着くのが難しい」と各首長のスタンスの違いを理由に挙げる。ある元首長は「改選のたびに知事寄りの首長が増え、物が言えなくなっている」と憂う。
 次回の懇談会は29日に開かれる。再稼働への同意判断は早ければ20年度にも迫る。住民の思いが酌み取られないまま、時だけが過ぎる。

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