【記事71380】30キロ圏に96万人…恐ろしい 6市村事前同意 生みの親・村上前東海村長(東京新聞2018年7月4日)
 
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30キロ圏に96万人…恐ろしい 6市村事前同意 生みの親・村上前東海村長

 東海第二原発(茨城県東海村)が新規制基準に「適合」となり、原子力規制委員会が課す再稼働に必要な三つの審査のうち、一つをクリアした。残りを通過しても、最大のハードルが待ち構える。東海村や水戸市など三十キロ圏の六市村が再稼働に同意するかどうかだ。自治体による枠組みの「生みの親」である東海村の前村長、村上達也さん(75)は「首長の力量が問われる」と話す。(鈴木学、越田普之)
 「六市村がそれぞれ、住民の意向をくみ取ることが大事になってくる、首長が協定をどう使うかだ」。村上さんは再稼働の鍵を握るのは、自治体トップだと強調する。
 六市村は三月、原電と「再稼働の際、事前協議により実質的に六市村の事前了解を得る仕組みとする」とした規定を盛り込んだ新協定を締結。全国で初めて、三十キロ圏の一自治体でも「ノー」と言えば、再稼働できないようにした。
 六年前、協定締結に向け、六市村と日本原子力発電の交渉のテーブルをつくったのが、当時村長だった村上さんだ。二〇一一年三月の東京電力福島第一原発事故で放射能汚染が広範囲に及んだのを見て、「立地自治体だけが、(再稼働の)同意の権限を独り占めするのは正義ではない」と異を唱えた。
 一二年、水戸市など三十キロ圏の五市長に声を掛け、原子力所在地域首長懇談会をつくり、議論を開始。後任の山田修村長に思いが引き継がれ、協定が実現した。「六市村長が粘り強く頑張った。山田村長が筋を通してくれた」と評価する。
 自治体の権限は拡大したが、原発を動かそうとする原電や、それを追認する規制委の姿勢を、村上さんは憂う。「福島の問題は今も解決されていないし、チェルノブイリは三十年たってもだ。東海第二は三十キロ圏に百万人近く住んでいるのに、廃炉を決断できないのは恐ろしい話だ」
 廃炉になれば、自治体が苦労している住民の避難計画も必要なくなる。約九十六万人の避難は一筋縄ではいかない。「半分の五十万人でも、実効性のあるものはできない」と心配する。
 村長を一三年まで四期十六年間務め、一九九九年の核燃料加工施設ジェー・シー・オー(JCO)の臨界事故では避難の指揮を執った。東日本大震災では、東海第二が危機的状況に陥るのを目の当たりにもした。
 「世界が自然エネルギーへ転換を進める中、『原子力発電の時代は終わった』というリーダーがいないんだな、この国には」
 嘆くだけではない。原発と生きてきた村で、かじ取り役を務めた村上さんは警鐘を鳴らす。「チェルノブイリや米スリーマイル島のような原発事故は日本では起きないと言ってきたが、いかにでたらめだったか。自国の科学技術を過信しすぎている」


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