【記事18414】揺らぐ安全神話 柏崎刈羽原発 はがれたベール 検証・設置審査 <3> 低い問題意識 東電「断層はおまけ」 1号機の海底調査行わず 四国電は実施 弱まるトーン(新潟日報2008年1月4日)
 

※以下は上記本文中から重要と思われるヶ所を抜粋し、テキスト化したものである

 安全審査を担当した学者の間で、関心に差が表れた活断層。審査を受ける東京電力側の問題意識も高かったとはいえない。
 「活断層の話は『おまけ』みたいなものだった」。一九七五年に始まった柏崎刈羽原発1号機の審査当時、現場責任者を務めた岡部忠夫(七六)はこう明かした。
 原発の耐震性審査に活断層の評価が加わったのは1号機のころからだ。以前の審査では、建築基準法で定めた一般建築物の「三倍」の耐震強度が設計条件の中心だった。岡部は建設予定地周辺の活断層を追いながらも「丈夫に出ることが一番」との思いが強かった。
 岡部は七二年、東電が原発建設に向けて柏崎市に設けた現地事務所に赴任。次長となった七四年以降は、反対派との地盤論争の矢面に立った。「敷地内の地盤の強さには自信があった」と岡部。論争の焦占は陸地の断層で、岡部の目も陸地に引きつけられていた。
 ところが、1号機の設置許可から三十年目の二〇〇七年七月、海底の断層が震源の中越沖地震が発生した。「まさか海に地震断層があったとは」。岡部は、弱みを突かれた思いを味わわされた。
 
 ■四国電は実施
 
 東電はこれまで、安全審査に伴う地質調査では「当時の最新技術を取り入れた」と繰り返してきた。
 だが、その説明は審査を担当した学者の証言とは矛盾が生ずる。東大の松田時彦(七六)と地質調査所(当時)の垣見俊弘(七八)は海底調査の必要性を指摘していた。しかし、東電は調査を実施していなかったからだ。
 電力会社による原発周辺海底の断層調査としては柏崎刈羽1号機の審査開始前に、四国電力が既に七二、七四年の二度行うという前例があった。愛媛県の伊方原発沖合で当時最新だった音源装置「スパーカー」を使った音波探査により、中央構造線と呼ばれる巨大な活断層の存在を突き止めていたのである。
 四国電に海底調査を提案したのも、実は松田、垣見の二人だった。「原発は海に面して建てる。陸地調査だけでは半分しか見ていないことになる」と垣見。
 しかし、東電は1号機の段階で技術的にも可能だった調査をしなかった。岡部は「六八年に海上保安庁が佐渡沖で音波探査をしていた。自前で調べても同じ結果になるのがおちだと考えた」と釈明する。
 審査の過程で学者から同様の要請を受けながら、対照的な対応をした両電力。では海底調査の有無にかかわらず、どちらも安全審査に合格しているのはなぜか。その背景には、審査を行う側の弱腰も透けて見える。垣見は「私は海の専門家ではない。指摘はしたが、柏崎沖に中央構造線級の活断層があるとは考えていなかった」と話す。
 
 ■弱まる卜−ン
 
 柏崎刈羽1号機の審査では結局、海上保安庁の資料などを基に原発前面の海域を評価した。結論をまとめた安全審査書には「海底に大規模な断層の存在は認め難い」と記された。
 「活動性は無視できる」などと断定調で書かれた陸域断層評価に比べ、否定のトーンは弱められている。審査書作成にかかわった元科学技術庁員の武山謙一(五七)は「断層はないとまでは断定できなかったからだ」と言う。自信のなさとも聞こえた。
 中越沖地震以降、報道を見るたびに胸を痛めているという岡部だが、「もしあのとき海域の調査をしたとして中越沖の震源は見つけられただろうか」との思いも消えない。
 岡部が現地事務所を去った七九年。東電は2、5号機の審査に伴い、独自の海域調査に乗り出すが、海底に眠る活断層は結果的に見逃されることになる。
 (文中敬称略)

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