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「東京電力の闇」第2弾 東京電力に原発を動かす資格はない 東京電力が必死に隠そうとする柏崎刈羽原発の大問題 「免震重要棟が基準地震動にさえ耐えられない」 山崎久隆(たんぽぽ舎)

  目次
 1.原子力規制委員会の怒り
 2.柏崎刈羽原発の「免震重要棟」の欠陥
 3.地震で揺れる「免震重要棟」
 4.2014年から隠ぺい
 5.東京電力の体質と思惑

1.原子力規制委員会の怒り

 原子力規制委員会・田中委員長は3月1日の会見で「東電の申請書総点検」を指示したことを明らかにした。東電から出された書類は一切信用しないということだ。
 「(東電は)かなり重症」「信義の問題」との発言から、規制基準適合性審査の見直しを示唆したものと捉えられている。設置許可変更申請書の書き直し、再提出も要求している。
 異例の事態となった理由は、原子力規制委さえ知らされていなかった欠陥が柏崎刈羽原発の免震重要棟にあることが、2月11日になって初めて規制委に告げられたことと、これを3年近くも隠してきたことだ。
 もっとも、規制当局が対象文書を「信用」してはならないのは、いつでもどこでも常識だ。
 しかし原子力の世界では身内意識が強く、大事な天下り先の事業者に対し「原子力安全委員会」時代から、まともな規制をしてこなかった「実績」がある。
 それは規制庁に代わっても本質的に変わりはない。
 「再稼働阻止全国ネットワーク」等と共に私も何度か規制庁の役人と議論をしたが、いともたやすく事業者の「解析」や「方法」を承認し、それをうのみにしてゴーサインを出し続ける態度に、一体どっちを向いて規制しているのか、国民か事業者か、と怒りの声を上げざるを得なかったことが何度もあった。
 そのうえ解析の元となった情報の多くは「白抜き黒枠」「海苔弁」状態で、一切市民に公開しない。
 「事業者のノウハウ」と、公表しない理由も事業者のいうがままだった。
 そのあげくが今回の柏崎刈羽原発の規制基準適合性審査での隠ぺいである。
 当たり前の姿勢を取ってこなかった原子力規制委は「舐められている」のであり、事業者のいうままに誘導されていることを自省すべきだ。

2.柏崎刈羽原発の「免震重要棟」の欠陥

 2月14日、柏崎刈羽原発再稼働を巡る規制基準適合性審査会合において、東電側担当者は奇妙な説明を始めた。
 事故時の緊急対策を行う場所「緊急時対策所」(以下、緊対処)は、柏崎刈羽原発では免震重要棟があるので、これを使うことが前提だったはずなのに「建屋の変位量が75cm以内もしくは免震棟の地震計が震度7未満のときに使う」といった趣旨のことを話し始めた。
 言い換えれば、というよりも正しく説明するならば75cmを超える変位量では建屋が損傷し使い物にならなくなる恐れがあることを述べたのである。
 しかもこの値は、計算上全部で7つある基準地震動のどれでも生じ得る値だとした。
 これには規制委もあ然とした。これまでそのような話を聞いたことがなかったからだ。これでは最も重要な局面、震度7の地震では使えない。
 東電は、緊急時対策所を当初3号機の内部に作ることを計画し、それを前提に新規制基準の適合性審査を受けようとした。
 ところが1から4号機いわゆる「荒浜側」は地盤が弱いため地震の影響で液状化が起きる危険性が高く、そのため1000億円もかけて建設した防潮堤の基礎杭が液状化に伴う「側方流動」で壊れてしまう恐れが出てきた。そこで緊急時対策所は5号機内部に作ることにした。
 この時点で免震重要棟が眼中にないかのような対応に疑問の声が上がったが、大きな話題になることはなかった。
 しかし2014年の段階ですでに、免震棟が基準地震動に耐えられず、破壊される可能性を東電は知っていたのである。

3.地震で揺れる「免震重要棟」

 一般に免震構造に関しては、いくつかの問題が明らかになっている。
 免震機構の中でも重要な免震機構用積層ゴムを製造している東洋ゴム工業が、本来の性能を維持できないものを性能データを偽装して出荷し、集合住宅や防災施設(自治体庁舎)を中心に欠陥免震装置が取り付けられる事件が起きた。
 また、大阪など都市部で主に問題になった、高層マンションなどの免震構造が震度7など設計時の想定を超える地震に耐えられないことが指摘された。
 免震構造は、揺れを積層ゴムなどのダンパーで逃がす構造なので、設計段階で想定する揺れの大きさを超えると免震機構が持たなくなる。また、揺れの大きさにより建物の変位する量が規定値を超えると、擁壁に衝突し破壊される危険性もある。
 免震は万能ではなく、想定地震を小さくするとこのように耐えられない危険性が増えるし、あまりに大きな想定地震を取ると、今度は設計・施工が困難になる。
 重量構造物や高層ビルで震度7でも耐えられる免震機構を設計するのはまだ難しい。免震機構に揺れが伝わった際にどうなるかが、まだ完全に解明されているとは言えない。開発途上の技術なのだ。
 柏崎刈羽原発は、変位量が75cmまでの揺れの大きさに耐えられる設計として建てられた(擁壁とのギャップは85cmあるという)が、これは2007年の中越沖地震を元にしたものとされる。
 ところが原発の耐震設計の場合は「解放基盤表面」という工学的地盤に、想定地震動(これがSs=基準地震動やSd=弾性設計用の地震動)を入れて、解析により地上の構造物の揺れを計算する。
 2008年、免震重要棟を建てた時におこなった計算は、1号機の原子炉建屋に来る想定地震動の大きさを1.5倍して設計したという(*)。もちろんこんな方法は原子力施設の何処でもやっていないし法的にも認められていない。2009年に完成させるために便宜的に行ったと思われる。
 その後、福島第一原発事故が起きた。このときに福島の免震重要棟は幸い破損には至らない揺れの大きさに収まった。
 しかし、柏崎刈羽原発を含む全原子力施設で基準地震動を見直したことから、今回の問題が明確化した。想定地震動の大きさが変わり変位量が増えて、設計範囲に収まらなくなったのである。
 普通、見直しの結果基準地震動に耐えきれないとわかれば設計を見直して造り直せば済む。免震構造の建物は簡単な補強では大幅に性能を高めることは困難であり、再建築が一番確実だ。
 ところが柏崎刈羽原発は日本で最も大きな基準地震動になってしまった。1〜4号機側(荒浜側)で2300ガルは、従来の450ガルの5倍以上。中越沖地震の解析結果である解放基盤表面のはぎとり波1699ガル(マグニチュード6.8の地震ですら、この値である。)に比べても1.35倍になる。
 東電はこの事実を隠ぺいし、別の場所に緊対所を設け、免震重要棟は「予備」扱いをすることにした。これでは福島第一原発事故以後は緊急対策の能力を大きく低下させることにしかならない。面積や居住性が全く異なるのである。
(*)原子炉建屋基礎マット上の地震観測記録を1.5倍したもの。このときの最大変位量は最大57.7cmなので1.3倍の75cmあれば十分と判断したと思われる。

4.2014年から隠ぺい

 免震重要棟が基準地震動にさえ耐えられないことが分かったのは、2013年の試検討(1)だとされる。再稼働のために原子炉設置許可変更申請を行ったのが2013年9月、この準備段階で「試検討」を行った。この際は事務棟本館の地盤応答解析を元に、減衰効果が大きいと判断して簡易的に免震重要棟の基礎に直接地震動を入れた。この解析の結果、7つある基準地震動のうち5つで変位量75cmを超えることが分かったという。
 その後、2014年になって免震重要棟の変位量を小さくするために免震ゴム、新しいダンパーなどの開発が行われ、その中で一連の「試解析」(2)を行った結果、2013年の時よりも更に大きな変位量になることが分かり、全部の基準地震動で75cmを超えてしまう結果になったという。 2014年の解析は1号機の深地層(西山層よりも深いという)の地質データを使い、解放基盤表面に地震動を入力する本来の解析手法を採って計算している。
 簡易的手法が安全側ではなく危険側になっていたのである。いわば最もやってはいけないことをやってしまい、規制委員会にもずっと黙っていたわけだ。
 審査会合では、基準地震動Ssどころか、Sd(*)でも持たない可能性は否定できないのではないか。との委員の問いに対し、東電は否定できないとの趣旨の答えを返していた。これは極めて深刻である。
 試検討(1)と(2)は設置許可変更申請に際して行われた耐震性評価。建設時に1号機基礎板のデータを代用していたため、本来の耐震評価をしてみたところ大きく不足していたことが分かった。このような解析をした背景には耐震強度不足を感覚的に知っていたからだと思われる。Ssになんとか耐えられる免震装置を開発、設置するためにデータを取っていたのであろう。
 東電としては再稼働申請の途中で免震重要棟の耐震性を引き上げ、解決済みとして報告したかったのだろうが、技術的に困難だった。
 昔から続いているこれまでのデータ改ざん、偽装の手法によく似ている。
(*)Sdとは弾性設計用の地震動のこと。構造設計に用いられる弾性範囲の耐震設計用地震動だ。Ssとの差は概ね半分ほどとされる。この揺れでは構造物は弾性範囲に収まっていなければならない。Sdで75cmの変位量を超えていたとすれば免震重要棟は緊対所どころか今後いっさい使用出来ないことになる。

5.東京電力の体質と思惑

 東電は何を考えてこのような説明をしたのか。
 説明文書や説明の仕方を見ていると、問題を深刻には捉えていない様子を見せている。もちろんポーズと思われるが。
 5号機の緊急時対策所は剛構造の建屋にあるので、基準地震動でも十分耐えられる。
 こちらを「主たる緊対所」として申請し、免震重要棟は「従たる緊対所」として申請をすれば問題はなく、実質的に目的は達せられると考えた。「75cmまでの変位ならば免震重要棟を使いそれ以上ならば5号機を使う」と、さらっと説明している。
 説明では少なくても2014年から性能不足だと分かったことも触れない。極力問題にならないよう、目立たないように説明をしていた。
 委員から原因を問い質され、答えるのに「プラント建設側と土木側の意思疎通がうまくいかなかった」などと言い出した。東電の場合これは一度や二度ではない。まさしく体質といわれても反論できまい。
 原子力規制委員会は後日、廣瀬社長を呼び出して説明を求めている。そして原子炉設置許可変更申請書を出し直し、申請書に問題がないか総点検をするよう命じた。
 しかし、これは甘すぎる指示である。これまで審査してきた中にも同種の問題があるのではないかと疑ってかかるべきだろう。特に新しい施設、設備や対策に大きな欠陥がないかを見なければならない。
 格納容器ベントや消防ポンプを使ったペデスタル注水など、設計時には想定されていない過酷事故対策に安全上の問題があるのではないか。疑惑は尽きない。 少なくても東京電力に原発を動かす資格があるとは到底考えられない。(了)

 ※《事故情報編集部》より
  この文章は月刊たんぽぽニュース2017年3月No255に
  掲載されたものです。

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