[2019_03_11_03]「原発ゼロは可能だ」小宮山宏・三菱総研理事長インタビュー(東京新聞2019年3月11日)
 
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「原発ゼロは可能だ」小宮山宏・三菱総研理事長インタビュー

 三菱総合研究所理事長の小宮山宏氏(74)は東京電力福島第一原発事故の前後に東電で監査役を務め、原子力業界を間近で見てきた。近年は再生可能エネルギーの推進を訴え、経済界に身を置きながら「原発ゼロは可能だ」と明言する数少ない一人。その真意を聞いた。(伊藤弘喜)
3.11機に原発はコスト高く
−東電監査役時代からの考えが変わったのですか。
 あまり変わっていません。東電でも再生エネと省エネの重要性を主張し続けた。1990年から一貫して「温暖化の解決策となるエネルギー源は、再生エネと原子力しかない。ただし原子力には安全性の問題がある」と言ってきました。
 90年代、再生エネのコストはまだ高かった。技術的な見通しが完全には立っていなかったから。でも技術が進めば下がり、2050年ごろには安全対策でコストが上がる原子力と逆転すると思っていた。ところが3・11がきっかけとなり原子力のコストは上がり、再生エネはがんがん下がった。(逆転は)予想よりはるかに早かったです。

送電線は公共事業で増強を
−なぜ日本で再生エネが拡大しないのでしょうか。
 背景に大手電力10社による地域独占体制がある。地域間をつなぐ送電線が細く、電力が足りなかったり余ったりした時、融通できる余地が少ないのです。
 送電線は誰のものか。国民が払う電気料金で整備してきたのだから、単に電力会社のものではありません。公共事業で増強し、社会の所有物にすべきです。
 昨年、世界で新設された発電所の70%は再生エネで火力が25%、原子力が5%。こうした傾向は近年、一定しており、世界の潮流は完全に再生エネにシフトしている。欧州では再生エネの比率は30%を超えた。中国でも25%、米国が3割ほど。日本は16%で完全に出遅れています。

再生エネは地方を変える
−再生エネはどんな効果をもたらしますか。
 地方の活性化という日本の根本的な課題の解決につながります。今は石油や石炭、天然ガスを輸入するため20兆〜30兆円が海外に流れている。再生エネで自給するようになれば、このお金は国内に流れ、地域の産業に変わります。間伐材や家畜のふん尿で発電するバイオマスの推進は、農林業の再生につながる。水が豊富な地域は水力を、風が強い地域は風力をといった具合に、地域に合った再生エネに取り組めばいいのです。

−現状は、政府も経済界も原発再稼働に積極的です。
 20年後には原発はほとんど動いていないでしょう。新しい原発をつくるのは極めてコストが高い。長期的には、全てを再生エネでまかなうことに多くの人が合意できると思います。一番安いのだから。

再生エネは後世への「贈り物」
−再生エネ電力を買い取る固定価格買い取り(FIT)制度は電気料金で下支えしています。それにより、国民負担が膨らんでいるという指摘があります。
 FITは再生エネを普及させるために、現世代が負担する制度です。原発が放射性廃棄物の負担を次世代に回していることとは逆の構造なのです。FITでの買い取り期間は10〜20年。何万年も保管する必要がある放射性廃棄物と比べれば、FITの負担は我慢できる範囲だと思います。温室効果ガスを出さず、後世に負担を残さない「贈り物」となるエネルギー源は、再生エネ以外にありません。

【略歴】こみやま・ひろし 1944年、栃木県生まれ。東大大学院博士課程修了。工学博士。専門は地球環境工学。東大教授、東大学長などを経て、2009年から現職。09年6月〜12年6月まで東電監査役。

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