[2019_04_15_02]原発推進の道筋は福島第一原発事故の教訓を忘れ去ること 老朽炉を60年以上も動かそうと画策する経団連 新たな原発支援策を検討する経産省 (その1)(3回の連載) 山崎久隆(たんぽぽ舎副代表)(たんぽぽ舎2019年4月15日)
 
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原発推進の道筋は福島第一原発事故の教訓を忘れ去ること 老朽炉を60年以上も動かそうと画策する経団連 新たな原発支援策を検討する経産省 (その1)(3回の連載) 山崎久隆(たんぽぽ舎副代表)

新たな原発支援策を検討する経産省
原発の40年寿命を放棄することは福島第一原発事故をなかったものとし
新たに安全神話を作り出そうとする企み

◎ 4月8日、日立製作所出身の中西宏明経団連会長が、経団連の電力システム提言について記者会見を行った。
 提言の中で、原発の運転期間を現行の最長60年を、さらに延長できるかどうか検討するよう要請している。
 また、運転期間を算定する際には、原子炉が停止していた期間を控除することも要求している。
 原子炉等規制法を改正し、運転期間制限を導入したのは福島第一原発事故の教訓からだが、そこから大きく後退する提言を行った。
 その理由は、経済性の悪化が最も大きいと思う。

◎ 経産省は現在、原発の電力に対して新たな補助金を出そうとしている。キロワットアワー当たり例えば1.9円などと、大きな利益を原子力発電会社に与えるというもの。電気料金に転嫁されるので国民負担となる。
 モデルとされているのは、ニューヨーク州、イリノイ州、ニュージャージー州で実施されている「ゼロエミッション・クレジット制度」だ。
 つまり排出二酸化炭素量がない(ゼロエミッション)電源であるから「二酸化炭素排出削減」に貢献する電源として価格に一定額を上乗せすることが認められる。
 しかし発電段階でのみ二酸化炭素排出量が少ないからといって、環境対策上有効などとは言えない。福島第一原発事故は、どれだけの損害を生じさせただろうか。
 新たな資金支援を原発におこなう理由は、安全対策設備などに巨額の費用が掛かることから来る。つまり原子力救済策である。
 米国でもゼロエミッションクレジットを導入しなければ多くの原発が閉鎖されると見込まれて、導入されている。

◎ だが、原発への手厚い保護政策は、本来目指すべき再生可能エネルギーへのシフトを大きく遅らせるばかりでなく、巨額の費用が投じられることから産業構造の大きな変質へと向かう。
 さらに、原子力産業の肥大化は、将来の核兵器開発へと続く危険性を増し、核廃絶どころか日本からの核拡散への道へとつながるであろう。
 事故が起きなくても大きな問題を生じさせる。そのうえ将来想定される地震や津波、あるいはそれ以外の理由でも大規模な原子力災害が生じたら回復不能な打撃を地球規模で与えるかも知れない。

◎ もう一度言おう。原発の40年寿命を定めた根拠は、福島第一原発事故を防ぐことが出来なかった、旧原子炉等規制法の下での原発運営を教訓化したからである。
 それを放棄するということは、福島第一原発事故をなかったものとし、新たに安全神話を作り出そうとする企みに他ならない。
 絶対に認めてはならない。

◎原発の寿命をなぜ「40年と明記」したのか
 「高経年化技術評価」は何の意味もなかったことが曝露された
 福島第一原発事故後の2012年6月、原子炉等規制法が改正され、原発の運転期間は40年と明記された。(より正確には使用前検査に合格した日から起算して40年)。
 それまでは運転期間に明確な規定はなかったが、2003年から「高経年化技術評価」いわゆる老朽化対策を、運転開始から30年目に行う制度が導入された。
 これは、その後も10年ごとに評価を行って認可を得ることで、最終的に通算で60年は動かせる規定となっていた。
 旧法で最長60年の運転については、ほとんどの原発がめざした。
 福島第一原発では1〜6号機全てが30年目の評価を終えていた。
 さらに1号機は2回目の高経年評価を実施し、原子力安全・保安院(当時)から2011年2月7日に認可を受けていた。
 2011年3月26日に運転40年を迎えるところだったが同年3月11日に地震と津波で過酷事故を引き起こしてしまった。
 電力会社が作成した当時の評価報告書は、機器類の劣化についての評価が主で、圧力容器の照射脆化(炉内で発生した中性子が圧力容器の材料を叩き、分子の欠損を生じて脆くなる現象)についての評価や、ポンプ、配管類の応力腐食割れなどによる劣化状況を分析している。
 しかしながら耐震性の評価などを見ても、新しい知見で評価をやり直すわけでもなく、基準地震動を使った甘い想定による耐震性評価を再度おこなっているに過ぎない。
 福島第一原発1〜3号機は運転30年目と40年目までにおこなう「高経年化技術評価」を経て認可されていたにもかかわらず、地震と津波で炉心溶融を起こした。
 結果として「評価」が何の意味も持たなかったことが曝露された。
 「高経年化技術評価」の際に、敷地を超える津波を評価するとか、基準地震動をはるかに超える地震動を想定するなどの、当時も想定されていたリスク評価を実施していたら、これら原発の認可は出来ず、少なくても耐震性評価のやり直しと遡及適用、津波対策の進入路閉塞工事と防潮堤の建設が行われていたら、また違っていたであろう。
 結局、「高経年化技術評価」をいくらおこなっても、その前提となる原発の安全設計が根本からダメならばほとんど効果がない。
 40年以上も前の知見で立地した原発は、その多くが現代では立地審査さえパスしないだろうと想定されるものばかりだ。
 特に立地地点の地盤、地質、そして地震や津波の想定は、古い知見に加え工学的に押さえ込む(要は強く作れば壊れないといった低次元の発想)考え方で建設が強行されているため、後から手直しのしようがない。
 だから、その多くで見られるのは、敷地内部や近郊の断層評価、地震評価、基準地震動の策定、基準津波の策定等では、立地時点では考えつかなかった、または異論を排除された評価がされてきたため、対応をすることさえも事実上不可能なのだ。
 時間とは残酷なもので、知られていないか、強硬な原発推進の前に顧みられなかった知見が「発見」「再発見」されたことで、前提が崩れることがよくある。
 立地時点では周辺人口が希薄、あるいは今より少なかったが、その後増加したため、福島第一原発事故の経験で見直される原子力防災体制でも計画そのものが作れない地域も存在する。
 これらを総合して、立地から相当期間を経過した原発については、新しい原子炉等規制法において40年を運転期間としたのである。

経団連…60年超え運転を主張

 しかし原発企業も疲弊しており投資出来るほどの資金は準備できそうもない
 4月5日、経団連が政策提言を行い、原発の運転期間を60年よりも延長できるよう検討することを要請すると共に、運転期間算定の際には停止期間を除外することを求めていることが報道された。
 原子炉等規制法の制限である40年どころか、特例的に設けられている「1回限りの20年運転延長」さえも取っ払って引き延ばせという。
 暴論であると共に、机上の空論でもある。
 経団連は他にも新増設へ道を開き、再稼働を進めることを求めるなど、福島第一原発事故があたかもなかったかのような主張をしている。
 1月1日の年頭会見で中西会長の「お客さまが利益を上げられない商売でベンダー(提供企業)が利益を上げるのは難しい。どうするか真剣に一般公開の討論をするべきだと思う。全員が反対するものをエネルギー業者やベンダーが無理やりつくるということは、民主国家ではない」との発言からは、真逆のように見える。
 この発言のあと、中西会長は1月15日の会見で「原発の再稼働はどんどんやるべきだ」と発言。
 さらに「安全について十分議論し尽くしている原発も多い。(立地、周辺)自治体が(再稼働に)イエスと言わない。これで動かせない」と、地元自治体への圧力と取れる発言をおこなっている。
 原発輸出が全滅したため、国内の計画しか原子力産業を買い支える手段がなくなったことから、なりふり構わぬ姿勢を見せているようにも見える。
 しかし旗を振ってみても原発企業も疲弊しており、投資出来るほどの資金は準備できそうもないと思う。                          (了)


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