[2019_05_23_05]【廃炉の最終形】更地化が復興の大前提(5月23日)(福島民友2019年5月23日)
 
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【廃炉の最終形】更地化が復興の大前提(5月23日)

 日本原子力学会は、東京電力福島第一原発の廃炉作業完了時の姿を報告書にまとめて今夏にも公表する。構内の全施設撤去のほか、一部施設を残す案も提示する。あくまで検討のたたき台にしてもらう趣旨だとしても、更地にして有効活用する以外に復興の最終形はあり得ない。報告書が一人歩きし、被災地不在で議論が進む事態を懸念する。
 学会シナリオの第一案は、事故で溶け落ちた溶融核燃料(デブリ)を取り出した直後から構内の全施設の撤去作業に取り掛かる。更地にすれば、東京ドーム七十五個分に当たる約三百五十万平方メートルを再利用できる。一方で、原子炉建屋の基礎部分も全て取り除くことで約八百万トンの放射性廃棄物が発生する。
 第二案は、原子炉など汚染度の高い施設を一部残し、計器類で監視を続ける。第三・第四案はデブリ取り出し後、放射線量の低下を待って施設を取り壊す内容だ。
 第二案から第四案は、廃棄物の発生量が第一案と比べて大幅に少なくなる。ただし、第二案は周囲の土地の再利用が制限される。第三・第四案を採用すると、解体撤去までに百年単位という果てしない期間を要するという。
 廃炉に向けては、デブリの取り出しが最難関の課題となる。東電は、中・長期的なデブリの取り出し工程は掲げるものの、廃炉の最終的な形は打ち出していない。
 こうした現状を踏まえて学会は「第三者として選択肢を示す。国と東電、地元が(廃炉の)最後の姿を決める際の参考にしてほしい」と説明する。提案自体は尊重するべきとはいえ、県民をはじめ国民がどう受け止めるのかが気掛かりだ。
 第一案で示した膨大な廃棄物の処分先を除染廃棄物と同様、県外に求めようとして立ち往生した場合、他の三案が浮上しはしまいか。仮に一部施設が残ったままになったり、更地化される時期の見通しが立たなかったりする事態になれば、住民が安心して暮らしていけるはずはない。帰還意識にも影響する。
 東電は学会の報告書にとらわれず、地元や関係団体などの意見を聞きながら廃炉の全体像を決める方針だ。東電、加えて国も責任を持って更地化に取り組むよう求める。
 県原子力安全対策課は「デブリの安全な取り出しや放射性廃棄物の県外処分をまずは強く訴えていく」との姿勢を示す。しかし、廃炉の終着点が見えない地域に将来展望は描けない。県は優先課題の一つに据え、積極的に発言していくべきだ。(五十嵐稔)
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