[2019_05_30_02]<原発のない国へ>再エネ加速、日独けん引を 独経済・エネ相が寄稿(東京新聞2019年5月30日)
 
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<原発のない国へ>再エネ加速、日独けん引を 独経済・エネ相が寄稿

 脱原発と脱石炭を進めるドイツのアルトマイヤー経済・エネルギー相(60)=写真、独政府提供=が本紙に寄稿した。日本が初めて議長を務め、六月十五〜十六日に長野県軽井沢町で開かれる二十カ国・地域(G20)エネルギー・環境相会合は「世界のエネルギー転換を加速する契機になる」と期待。日独が共同で再生可能エネルギーの技術開発をすれば、地球温暖化対策の「世界的なけん引役としてのメリットを長期にわたって享受できる」と強調し、日本に連携を呼び掛けた。(伊藤弘喜)

 寄稿文のタイトルは「エネルギーシフト(転換)の世界的推進のために」。
 ドイツは国内の原発を二〇二二年までに全廃する方針。アルトマイヤー氏は石炭火力発電も「利用を近い将来やめる」と宣言した。一方で、既に発電量の40%(日本は17%)に達している再エネについて「今や最も重要な電源となっている」と指摘し、「この比率を一層高める」と強調した。エネルギー転換と国際競争力維持の両立をはかり、経済成長を目指す方針も明確にした。
 日本には「日本とドイツが一貫してこの(エネルギー転換の)道を進んでいくことが重要」と呼び掛け。その上で「知見を共有し、二国間協力プロジェクトを実施することで互いの強みを相互に生かしていくことが可能になる」とラブコールを送った。具体例として、日本は再エネ普及の拡大の経験をドイツと共有し、ドイツは日本から水素やエネルギー貯蔵などの知見を学ぶことを挙げた。
 アルトマイヤー氏は再エネの拡大には「電力網の拡充の推進」が急務とも強調。ドイツでは風力発電所の大部分が北部に集中する一方、電力の需要は工業地帯の南部で多く、両地域を結ぶ送電網の整備が「焦眉の急」であると指摘した。さらに今後は電気自動車の拡大などで送電網不足が生じる可能性があるとし、「二一年までに数百キロに及ぶ新規送電網建設に着手する」との方針も示した。
 天候によって発電量が増減する再エネが拡大すれば電力供給量の変動も大きくなる。このため変動を調整する蓄電池やスマートグリッド(次世代送電網)の重要性が「一層高まっていく」と予想した。

◆原発依存の日本へ重い問い

<解説> 日本でのG20を前にドイツが日本国民に「ともに再生可能エネルギーのけん引役に」との強いメッセージを送った。技術力をテコに、自動車などモノづくりで生きてきた日本とドイツ。だが再エネでは日本は大きく後れをとる。責任あるエネルギー政策へと、かじを切る決断ができるのかが問われている。
 ドイツは発電量に占める原発の割合を二〇一八年現在の13・3%から二二年末までにゼロにする。石炭火力も政府の諮問委員会が三八年末までに全廃すべきだと答申。脱石炭に向け、炭鉱閉鎖など痛みを伴う政策にも取り組む。一方、再エネは40・4%(昨年)まで伸び、政府は三〇年までに65%に引き上げる方針だ。経済・エネルギー相が強調したように、ドイツはエネルギー転換を経済成長と両立させており、風力発電の技術は今や有望産業だ。
 これに対し日本政府は「温暖化対策には原発が不可欠」とし、石炭も使い続ける。米国などで開発中の小型原発の活用も視野に入れ、原発や石炭の復活を図る米トランプ政権と歩調を合わせる。だが原発は数万年もの保管が必要な「核のごみ」を排出し、将来世代にツケを残す。持続可能なエネルギーとはいい難い。
 それでも原発に依存し、使い続けるのか−。ドイツの呼びかけは国としてのあり方までも含めた重い「問い」を日本に突きつけている。 (伊藤弘喜)

<ペーター・アルトマイヤー経済・エネルギー相> 1958年6月、ドイツ南西部のエンスドルフ町生まれ。76年にドイツキリスト教民主同盟に入党。国際法の研究員、EU官僚などを経て政界入り。メルケル政権で環境相、首相府長官を歴任し2018年3月から現職。

<G20> 世界経済やテロ対策などを議論する国際会議で、20カ国・地域で構成する。当初、経済だけを議論する枠組みだったが、2008年の米国での首脳会合を機に議題が拡大した。日米やロシア、中国など19カ国と欧州連合(EU)が参加。19年は日本が初めて議長国を務める。大阪市での首脳会合に合わせ、農業、エネルギー、貿易など8つの関係閣僚会合も開催される。

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