[2021_02_10_07]柏崎刈羽原発中央制御室へ他人のIDカードで入る− タガが外れている東京電力 中央制御室管理の甘さが露呈 蓮池 透(新潟県在住)(たんぽぽ舎2021年2月10日)
 
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柏崎刈羽原発中央制御室へ他人のIDカードで入る− タガが外れている東京電力 中央制御室管理の甘さが露呈 蓮池 透(新潟県在住)

 読売新聞が1月23日付け朝刊で「原発中枢 他人IDで入る…柏崎刈羽所員 規定違反の恐れ」とスクープした。

◎ 内容を大まかに言うと以下の通りである。
・東京電力柏崎刈羽原発の所員が昨年9月、他の所員のIDカードを使い、中央制御室に進入していたことが、関係者への取材で分かった。
・中央制御室はテロや不審者に備えて、厳重な警備や防犯体制が敷かれているが、管理の甘さが露呈した形。
・原子炉等規制法に基づく核物質防護規定違反にあたる可能性があるとして、原子力規制委員会に報告した。
・所員は自分のIDカードが手元になかったため、保管されていた休みの同僚のカードを無断で持ち出した。
・不正進入は、6、7号機の再稼働に必要な審査中に起きていた。

 このスクープをきっかけにして、他のマスコミが一斉に後追い報道を始めたが、その内容はこれ以上でも以下でもなかった。

◎ 東京電力は、報道後に事実を公表したものの「核物質防護上、詳細を公表できない。地域の皆さまにご心配をおかけして申し訳ない。対策の徹底を図り、引き続き社員教育に努めたい」としただけだった。
 1月25日、東京電力新潟本社の橘田昌哉代表と石井武生柏崎刈羽原発所長が櫻井雅浩市長と面会、「大変な心配をかけ、改めておわびする」と陳謝。問題の経緯を説明し、今後、セキュリティーや社員教育の徹底に努めると述べた。櫻井市長は「東電の資質、的確性という言葉を出さざるを得ない非常に大きな案件だ」「原発の心臓部に社員が不正に入室したことは極めて重大であると言わざるを得ない」と厳しく批判し、核物質防護を理由に詳細を伏せる東電に、さらなる事実関係の説明を求めた。
 また「原子力規制委員会に報告したことを地元自治体に連絡すべき」と苦言を呈した。ただ面会後、櫻井市長は記者団に「この事案だけで自分の再稼働への考え方が変わるものではないが、再稼働の価値を認める人たちの根幹を揺るがしかねない大きな問題だと思う」と述べた。

◎ 花角英世新潟県知事は1月27日の記者会見で、「中央制御室への入退室の管理はセキュリティーの基本中の基本で、原発全体に対する信頼をなくしていく事案だ。安心・安全に関わることは地域にとっても大きな関心事で、可能なかぎり情報提供をお願いしたい」と述べ、東京電力に対し、速やかな情報提供を求めた。
 また、東京電力による地元自治体への報告に不備が相次ぐことに関連して、花角知事は「ひとつひとつは『ミス』なのかもしれないが、重なってくると全体に対する信頼をなくしていく」と述べ、情報発信のあり方をめぐる東京電力の姿勢も含めて、再稼働への対応を判断していく考えを示した。

◎ 一方、原子力規制委員会の更田豊志委員長は、以下の通り述べ、東京電力に対し厳正に対処する考えを示した。
 「人のIDを借りたというのは、ちょっと聞いたことがない。原子力施設で働く人のセキュリティに関する教育といいますか、意識の問題ですね。だから、東京電力の核セキュリティ教育が、果たしてどうだったんだという話には当然なるだろうと思いますし。一つの事例が、制度全体、システム全体の信頼に対して大きな疑問を投げかけてしまう結果になるわけですから、規制委員会としてもこれは重く受け止めたいと思いますし、また、東京電力に対しても、そして、そこから得られる教訓については、全事業者に対して厳しい対処が迫られると思います」

◎ また、東京電力は核物質防護規定に違反する可能性があるとして、原子力規制庁に連絡していた。連絡を受けた規制庁はすぐに規制委に報告するような事案ではなく「四半期ごとの報告の中で伝えればいいと判断していた」という。
 しかし、問題が近く報道されることが分かったとして、19日、更田委員長に報告。規制庁が5人の委員全員が集まる場で説明したのは26日だった。更田委員長は「核セキュリティ上の問題があったとしても、すぐに報告すべきだった」と規制庁の対応に苦言を呈した。
 以上が読売新聞の報道に端を発した事案に対する自治体、国の対応の流れだが、こんな状況の中、東京電力は再稼働へ向けた布石を打っている。
 すなわち、1月25日柏崎市を皮切りに27日刈羽村、2月8日長岡市、9日上越市、12日新潟市の5か所で「地域恩の皆さまへの説明会」を開催する。
 目的は「柏崎刈羽原子力発電所7号機の新規制基準に基づく審査ならびに安全対策工事の完了を踏まえ、当社のこれまでの取り組みをお伝えし、ご意見をいただくこと」とのことだ。
 以前も書いたが、この類の集まりは「アリバイ作り」「やらせ」に過ぎない。
わずか5か所での説明会を開催したことにより、「地元をはじめとする県民の皆さまにご説明をおこないご理解を得た」という結論ありきの会なのだ。

 柏崎市において、事前に寄せられた質問は、
1.厳寒による電力需給のひっ迫
2.脱炭素社会の実現
3.コロナ禍における避難計画
であったことからも容易に想像が付く。

 会場からは、この冬の記録的な大雪での避難に対する懸念も聞かれたが、やはり質問は「ID不正使用」に集中した。
 しかし、東京電力は「核物質防護上明らかにできない」「申し訳ない」の一点張りだった。
 また、橘田代表は、公表しなかった理由について「模倣犯が出ることを懸念した」と記者団に語った。
 さらに、27日、実は7号機の工事が完了していなかったことを明らかにした。6、7号機共用の空調系ダクトのダンパ設置工事が未着手だという。
 どうしてこうも失態が相次ぐのか。それでも今後の説明会を中止するとは、現在のところ聞こえてこない。
 東京電力は、再稼働に前のめりと言うよりもこのところ焦っている感じがする。今年に入ってテレビ・ラジオCMの回数が激増した。 それも新バージョンであり、「災害に強い発電所つくり」を「施設の強化」に変えている。
 今回の事案を見聞きして感じるのは、不可解な点が多すぎることだ。

1.何号機の中央制御室で起きたことなのか
2.誰が読売新聞に垂れ込んだのか 内部告発者がいるのか
3.何故このタイミングなのか 昨年9月下旬のこと
4.どのようにして中央制御室への「不正進入」が判明したのか
5.中央制御室へ「不正進入」した者の役割・目的はなにか
6.他人のIDカードを使用した理由は何か
  紛失か 常に携帯していないのか
7.誰がどのような手続きで原子力規制庁に報告したのか
  発電所長は把握していたか
8.中央制御室への入退室管理に関する具体的な
  セキュリティ・システムは

 東京電力が頻繁に使用する「核物質防護」(PP:Physical Protection of Nuclear Material and Nuclear Facility)についてであるが、主に国際原子力機関(IAEA)が取り組み、当初は核物質の盗取などの不法な移転を防止すること(核不拡散)を目的としていた。
 したがって、原発における核物質の盗取はあまり考えられないことから、せいぜいPPゲート(柵)の設置や原子炉上部蓋の封印(シール貼付)とそれをカメラにより監視する程度だった。
 しかし、2001年9月11日の米国同時テロや、福島第一原発事故以降、核物質をテロなどから確実に保護するため施設ごとに核物質防護規定を事業者が定め規制委の認可を受けること。
 また、全国の原発に地元警察本部の銃器対策部隊を配置し、中央制御室や原子炉建屋を24時間警備するなどテロ対策を強化している(核セキュリティ:原子力施設に対する妨害破壊行為への措置)。
 これらに鑑みれば、今回の中央制御室への「不正進入」などは絶対あってはならないことは明白である。
 それこそ、社員という「内部脅威者」がハンマーひとつ持って中央制御室に入り制御盤を破壊したらどうなるのかを考えればわかることだ。

1.について
 今回の事案が何号機の中央制御室で起きたことすら公表できないのは 異常である。

2.について
 読売新聞にすれば、情報源の秘匿ということになるのであろうが、再稼働を快く思わない者あるいは東京電力そのものに不満を有する者の内部告発だとすれば、私にとっては頼もしいことだ。

3.について
 告発後の事実関係の確認・取材に時間を要したとも考えられるが、告発がなければ全く表沙汰にならなかったとすれば非常に脅威である。

4.について
 「不正進入」した者が良心の呵責に苛まれて自ら名乗り出たのか。
 それとも、使用された者がそれに気づき報告したのか。良識ある同僚 あるいは上司が「不正進入」を目撃し、問題化したのか。
 これは、明らかにしても「核物質防護」上は問題ないはずだ。

5.について
 公表によれば、中央制御室へ入る資格を有する者であるとのことだが、急を有する作業を担っていたのか。あるいは、他人のIDカードを使用するのが常習化していたのなら、もはやモラルハザードである。

6.について
 IDカードは常に身につけているのか、ラック等に収めているのか。事務所の机の中に保管しているのか。「不正進入」した者がカードを持たずに事務所から中央制御室入口まで行き、それに気付き事務所に戻るのをはばかり(距離がある)、ラックに収納されている他人のカードを使用した。
 カードを紛失したか自宅に忘れたため、近くにある同僚の机の中から、カードを拝借した。推測の域を出ないが、常時携帯してこそのIDカードだろう。

7.について
 日常茶飯事であれば、それほど重大な事案とするとは考えにくい。
 それならば、わざわざ規制庁に報告などしないだろう。可能性は低いが、「不正進入」の現場を規制庁の検査監視官に目撃され報告せざるを得なかった。あってはならないことだが、読売新聞から取材を受け、東京電力と規制庁が口裏合わせを行った。ここまで憶測するほど信頼感はない。

8.について
 発電所の正門では、民間の警備員による顔写真確認で入構できる。次のPPゲートも同様だ。中央制御室への入退室のセキュリティ・システムがどのようになっているのかわからない。
 私の現役時代は、入口ドアはほぼ開放状態だったが、現在は違うだろう。
 顔認証システムや指紋認証システムが採用されているとは今回の事案から考えにくい。暗証番号付きのドアなのか、IDカードをタッチすると開錠されるのか。
 他人のカードで入れることから、タッチ式の可能性が高い。核物質防護の観点からシステムは明らかにされていないが、「不正進入」があるのなら、逆に顔、指紋など生体認証システムを導入することが求められるのではないか。

◎ 事の真相は、「核物質防護」と「陳謝」の連発で上塗りされ曖昧模糊としたままである。情報量が少ないと憶測を呼ぶ。
 それでなくとも、東京電力の情報隠蔽体質はいやと言うほど味あわされてきた現実がある。
 今回も何が問題で、それをどう解消していくのかという観点が欠如している。「また隠蔽か」と住民の不信感が増幅するのは無理もない。

◎ 上述した通り、東京電力は公開しても差し支えない情報もあるはずだ。何でも「核物質防護」というのは、濫用と言われても仕方がない。
 考えられるテロ手段とそれへの徹底した対策を積極的に公表してテロリズムを抑止する方策もある。
 日本では、原発へのテロ対策が、欧米に比べて、法的にも制度的にも整備されておらず脆弱である。
 そんな状況下で中央制御室への入退室も管理できないようでは、核セキュリティという言葉を発する資格はない。
 これから教育するような問題でもないし、「モラルハザード」が常態化しているとしたら、東京電力に再稼働の適格性はない。
 保安規定に「精神論」まで記した東京電力である。
 このままでは、「顔を洗って出直して来い」と言わざるを得ない。(了)
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