[2021_03_15_01]フィリピンで再浮上する原発計画 かつて東南アジア初でほぼ完成も稼働前に頓挫(東京新聞2021年3月15日)
 
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フィリピンで再浮上する原発計画 かつて東南アジア初でほぼ完成も稼働前に頓挫

 フィリピン政府が原子力エネルギーの活用を検討している。昨年末、エネルギー省を中心とした調査委員会が、ドゥテルテ大統領に実現可能性に関する報告書を提出。国民の議論は盛り上がっておらず、絶大な人気を誇るドゥテルテ氏の判断次第で、原発計画が動きだす可能性がある。 (バンコク支局・岩崎健太朗)
 「もちろん(計画推進に)肯定的な結果を期待している」。昨年12月、原発導入に前向きなクシ・エネルギー相は報告書提出時の記者会見で、国の電力需要に原子力の活用は欠かせないと強調。大統領のゴーサインに期待した。
 フィリピンでは過去にも原発計画があった。1984年に東南アジア初の原発となるバターン原発がほぼ完成したが、稼働前に頓挫した。その後も、計画はたびたび持ち上がったが、東日本大震災の福島第一原発事故などの影響で機運は盛り上がらなかった。
 しかしドゥテルテ政権が発足して再浮上。2017年以降、ロシアの国営原子力企業ロスアトムがかかわり、19年にはプーチン大統領とのトップ会談で休眠中のバターン原発の再利用や、小型原発の新規建設などの協力提案を受けた。
 国内の電力は輸入化石燃料への依存度が高く、電気料金は近隣国より割高。地元メディアによると、経済の急成長で20年後のエネルギー需要は3倍に膨らむとの予測がある。実業家出身のクシ氏は「エネルギー安保を確実にし、緊急事態にも対処できる」と原発を巡り積極的な発言を繰り返している。
 一方、国際原子力機関(IAEA)はこれまで専門家チームを派遣し、現状を調査。19年10月には、放射性廃棄物の処理に関する法規制や人材育成、国民との対話が不足している―などの報告書をまとめた。
 実現可能性の調査は大統領令によるもので、専門家の間では「原発の導入計画は、ドゥテルテ氏が推進している大規模インフラ整備プログラムを担保する位置付け」との見方がある。
 ただ、慎重論は根強く、フィリピン大のローランド・シンブラン教授は「原発開発には、インフラ整備や人材育成など膨大なコストと時間を要する。新型コロナウイルス禍からの回復が最優先される状況で、そのような余裕はないだろう」と指摘する。

 バターン原発 マルコス政権下の1970年代、石油危機などを背景に計画された。米ウェスチングハウスが受注し、84年にマニラの西80キロのバターン半島に9割方完成した。しかし、86年に民衆革命で政権が崩壊。直後にチェルノブイリ原発事故が起き、安全性や経済性を疑問視したコラソン・アキノ政権が運転開始を許可しなかった。
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