[2021_04_02_01]震災後10年は「ほぼ原発なし」 「50年温室効果ガス実質ゼロ」も脱原発で〈AERA〉(アエラ2021年4月2日)
 
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震災後10年は「ほぼ原発なし」 「50年温室効果ガス実質ゼロ」も脱原発で〈AERA〉

 2月13日の深夜に福島県沖を震源とする最大震度6強の地震が起きた。津波は来なかったが、10年前の記憶が頭をよぎった人も多くいただろう。10年前の東日本大震災では、福島第一原子力発電所の施設が壊れて爆発が起き、放射性物質が広い範囲にまき散らされた。あれから10年。小中学生向けニュース月刊誌「ジュニアエラ」4月号では、原発や日本のエネルギー政策について考えた。

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 福島県にある東京電力・福島第一原子力発電所では廃炉作業の真っ最中だ。鉄骨が露出し、建屋に作業用の設備が取り付けられている。トリチウムを含んだ処理水のタンク約1千基が密集している。しかし、肝心の、原子炉3基の炉心溶融で溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しも、処理水の処分もめどが立っていない。
 原発周辺には放射性物質で汚染された無人の地が広がっている。今も3万5千人以上が避難しているが、「もう戻れない」と諦める住民が増えている。
 これが原発事故10年の状況だ。かつて電力会社や政府は「日本では大事故は起きない」と言っていたが、今は大きすぎる破壊と汚染を前にして立ちすくんでいる。
 時間が経つにつれ事故の実相がわかってきた。事故では放射性物質が充満した格納容器が爆発寸前だった。爆発していれば「日本の3分割」が起きたとされる。汚染で住めなくなる東日本、住むことができる北海道や西日本の3地域への分断という恐ろしい話だ。日本を崖っぷちに立たせた事故だった。
 東京電力の元会長ら3人が裁判で刑事責任を問われている。3人は大地震の前に社内会議で、担当者から「高さ15mの津波がくる可能性がある」と明確に指摘されていたにもかかわらず、裁判では「私は十分には理解していなかった」「津波は想定外の規模だった」と繰り返している。自分たちがつくり、安全をPRしてきた施設がこれだけの事故を起こしても、日本はだれも責任を取らない社会であることが浮き彫りにされた。
 「未来のエネルギー」と期待された原子力を止めたのは、二つの大事故だった。1986年のチェルノブイリ原発事故(ウクライナ)では、原子炉1基が炉心溶融し、原子炉のふたを吹き飛ばして福島第一原発事故より多くの放射性物質を放出した。事故後、ヨーロッパで反原発運動が広がり、右肩上がりだった世界の原発総数が90年代以降は横ばいになった。
 二つ目の大事故は2011年の福島第一原発事故。世界の原子力産業の斜陽化がいっそう進み、一方で、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギー(再エネ)の急伸を後押しした。
 典型がドイツだ。「技術先進国の日本でさえ大事故が起きた」ことに衝撃を受け、22年までに全原発を止める脱原発と、再エネ推進を決めた。「原発事故はいざ起きると大災害になる。原発はしょせん発電の手段であり、手段は再エネなど他にもある」という理由はわかりやすい。スイスや台湾も時間をかけて脱原発を進めていくことを決めた。
 日本はどうか。福島第一原発事故の前、日本には54基の原発があり、発電の25%ほどを担っていた。事故で原発稼働への反発が強まり、これまで21基の廃炉が決まった。再稼働は9基に過ぎない。この結果、19年度の原発による発電量は6%でしかない。再エネは水力を含めて18%。日本は事故後の10年を現実的には「ほぼ原発なし」で過ごしてきた。
 しかし、政府のエネルギー政策としては、原発重視を変えていない。今、日本は「2050年に温室効果ガス排出を実質ゼロにする」という大目標を掲げている。「実質ゼロ」は、二酸化炭素などを少々出しても森林などが吸収する分を差し引けばゼロになる状態をいう。
 これの達成に政府は原子力を積極的に使おうとしているが、ここはよく考えたほうがいいだろう。福島第一原発事故の経験を踏まえ、世界の潮流を見て、賢明な判断をする必要がある。原発の姿はこの10年で大きく変わった。もう「大事故は起きない」とは言えず、事故への責任もあいまい、発電コストも高くなるなど、信頼感や確実性が失われた。今、原発に多くを頼った将来計画をつくると失敗するだろう。
 今年は重要な「第6次エネルギー基本計画」を議論する。その柱は「原発を新設しない」「原発に頼らず、再エネ中心で『50年ゼロ』の達成計画をつくる」にすべきではないだろうか。
(元朝日新聞編集委員・竹内敬二)

※月刊ジュニアエラ 2021年4月号より
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