[2021_05_18_02]<さまよう避難計画 東海第二原発運転差し止め判決>(2)調整3年 難航続く交通手段手配(東京新聞2021年5月18日)
 
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<さまよう避難計画 東海第二原発運転差し止め判決>(2)調整3年 難航続く交通手段手配

 日本原子力発電東海第二原発から南西に約三キロ、通称「動燃通り」沿いにある東海村の特別養護老人ホーム「常陸東海園」。入所者約百六十人を抱える施設の理事長を務める伏屋淑子(すみこ)さん(85)は「事故が起きたら、避難なんかできない」と語気を強める。
 県の方針では、三十キロ圏内の住民は原則、自家用車で避難する。一方で、社会福祉施設の入所者や病院の入院患者のほか、車を所有していない住民はバスや福祉車両で避難する。
 県は、施設入所者や入院患者について「あらかじめ定めた施設や病院に受け入れを要請し、準備が整い次第、避難する」との方針を示す。交通手段は施設側が自力で確保するか、県や自治体が手配する。
 だが、伏屋さんは「事故が起きた時に、原発から近いこの施設に来てくれる人なんているのだろうか」と県のやり方を疑問視する。
 入所者の家族に、事故時に迎えに来られるかアンケートしたところ、大半は「来られない」と回答した。「交通手段も決まっていないのに、避難先の施設を確保するなんてできるわけがない」と憤る。

■机上でも

 県は現時点で、避難に必要なバスの台数を明らかにしないが、二〇一八年の本紙の取材には「五十人乗り二千九百十八台」としていた。県バス協会に登録されるバスが約三千台。うち半数弱の路線バスは基本的に使用できないとされ、机上でも足りない。
 その中で、県は一九年度から、ネット上でバスや福祉車両を効率的に配車できるシステムを開発中だ。本年度までの三カ年で、国の交付金から事業費約一億七千四百万円を賄う。
 システムでは、あらかじめ施設側が想定避難者数や避難先を、バスや福祉車両を所有する事業者側は台数や定員を入力。事故時に、それらのデータを基に避難が必要な人数や配車が可能な台数を突き合わせ、県が配車の指示を出す。
 県原子力安全対策課は「災害対策本部で膨大なやりとりをするのは人力だけでは難しい。システムを活用し、円滑に避難手段を確保できるようになる」と期待を寄せる。全国の原発立地自治体では、初めての取り組みだという。

■取りやめ

 運転手の確保も難題だ。国の指針によれば、積算で一ミリシーベルトを超える場合は、運転手を派遣できなくなる。深刻な事故では、一ミリシーベルトはすぐに超える恐れがある。県バス協会の担当者は「協力したいが、運転手の安全が担保されていなければ派遣は難しい」と強調する。
 また、バスを遠方で使用していたり、運転手が非番で飲酒していたりする場合など状況次第では、派遣台数も変わってくるという。担当者は「事前に想定された台数通りにはならない可能性もある」と語る。
 一八年七月に、県は、バス協会と避難に関する協定を締結することを報道発表したが突如、キャンセルした。事故時の連絡体制や放射線量が高い時の運転手の派遣など具体的な内容が詰め切れず、大井川和彦知事が締結の取りやめを指示した。それから三年近くたっても協定は実現できていない。県は「調整中」としており、難しさを物語る。
 足りないバスをどうするのか。県原子力安全対策課は「福島や栃木県のバス協会にも派遣を依頼している。最終的には自衛隊」と説明。災害対応に当たる自衛隊がどれほど手配してくれるのか、事故が起きてみないと分からない。
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