[2021_05_18_03]汚染水対策土のう、10年たって足かせ 26t「厄介な存在」に(毎日新聞2021年5月18日)
 
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汚染水対策土のう、10年たって足かせ 26t「厄介な存在」に

 高濃度の放射性物質を含む汚染水対策に追われている東京電力福島第1原発。4月に処理水の約2年後の海洋放出が決まったが、新たな課題が浮かび上がっている。10年前、建屋の地下にためる汚染水への対応として緊急投入された土のうだ。当時の対応が、ここに来て廃炉作業の足かせになっている。【岡田英/科学環境部】

 ◇放射性物質吸着、表面は高線量

 事故を起こした4号機の南側に並ぶ二つの建物。ともに地下2階まであり、高濃度の汚染水計7800立方メートルがたまっている。問題の土のうは、その中に沈んでいる。
 事故直後、1〜3号機の原子炉では炉心が溶ける「メルトダウン」が起き、溶け落ちた核燃料を水で冷やしたため大量の汚染水が生じた。当時、今のように敷地内に汚染処理水をためるタンクや放射性物質の濃度を下げる装置はなく、東電はこの二つの建物の地下を急きょタンク代わりにした。その際、地下2階の通路に土のうを並べた。
 なぜ、土のうなのか。袋の中には「ゼオライト」という軽石が詰まっている。ゼオライトには、セシウムやストロンチウムなど放射性物質を吸い寄せる性質がある。東電は、この性質を利用して汚染水の濃度を下げようと、ゼオライトの土のうを活用した。使われたのは計約1300袋、約26トンに上った。
 その後、廃炉作業が徐々に進み、この二つの建物の地下にたまった汚染水を抜き取ることになった。東電は当初、2020年内に抜くことを計画。19年9月〜20年3月、汚染水の中をカメラ付きのロボットで調べたところ、袋の表面で最大毎時4・4シーベルトの放射線量を計測した。1時間浴びると、半数の人が死亡するほどの高線量だ。
 さらに、袋が破れ中身が出ている土のうを複数確認した。「(棒状の)ポールで袋をつつくと簡単に破れそうだった。劣化していると考えざるを得ない」。東電の担当者は、19年10月の原子力規制委員会の有識者検討会でそう報告した。汚染土のうが厄介な存在であることが明らかになった。
 高線量の建屋で、回収はロボットに頼らざるを得ない。東電は、汚染水を抜き取った後に回収する予定だった。しかし、水を抜き取ってからだと、放射性物質を含んだちりが舞って周辺に飛散する恐れがある。このため、今年1月に計画を変更。作業の難易度が上がっても、水を抜く前に回収することにした。
 今月20日には、ボート型の調査ロボットで土のうの正確な位置や建物内の作業環境を確認する。この結果を踏まえて、回収用のロボットや装置を設計、製作し、23年4月以降に回収を始めたいという。ただ「設計や製作にどの程度、時間がかかるかまでは精査できていない」(東電の担当者)ため、具体的な時期のめどは立っていない。

 ◇汚染ごみ、行き場なく

 汚染土のうは今後、回収されたら放射性廃棄物になる。廃炉作業が進むにつれ、このような「汚染ごみ」の量は膨らむ一方だが、処分の方法や処分後にどこへ持って行くかは、決まっていない。
 汚染土のうには、汚染水のセシウムなどが大量に付着しているので、放射線を出す能力(放射能)のレベルは高いとみられる。同様に高いと考えられているのが、汚染水の放射性物質の濃度を下げる多核種除去設備「ALPS(アルプス)」で生じた汚染ごみだ。
 アルプスでは、汚染水の中の放射性物質を薬剤で沈殿させたり、吸着材でこし取ったりする。その過程で発生する汚泥や使い終わった吸着材が汚染ごみになる。東電はこれを円筒状の容器(直径約1・5メートル、高さ約1・9メートル)に入れて敷地内で保管しており、その数は既に約3800本に及んでいる。
 特に汚泥は、放射性物質が混じった水分を含んでおり、外に漏れる恐れがある。このため、東電は22年4月以降に汚泥を脱水して固体にする計画だ。ただ、固体化により放射性物質が凝縮されるので、さらに放射能のレベルが高くなる。
 一方、汚染ごみの中には、汚染土のうより放射能レベルが低いものも多い。事故時の水素爆発などで飛び散った放射性物質が付いたがれきやタンクの設置のために伐採した木、廃炉作業で使った防護服などだ。その総量は、20年3月時点で約47万立方メートルに上る。
 東電の予測によると、この総量は32年3月に約78万立方メートル(東京ドームの容積の約6割に相当)に増える。燃やせる汚染ごみは焼却するなどして容積を減らすが、それでも約26万立方メートルが残る見通しだ。この中には、汚染土のうやアルプスから出るごみは含まれておらず、容積は26万立方メートルからさらに増える可能性があるという。
 こうした汚染ごみについて、政府・東電の廃炉工程表では今年度中にも、減量化など処分に向けた技術的な見通しを示す。しかし、処分先を巡る議論は、まだ緒に就いていない。廃炉作業を所管する経済産業省の幹部は「最終的なごみの総量の把握や分類ができないと、処分先の議論は始められない」と説明する。
 通常の原発の場合、高レベル放射性廃棄物(核のごみ)は地下300メートル以上の深い所で処分される。これとは別に、廃炉に伴う汚染ごみは放射能レベルに応じて三つに区分される。低いものは地面近くの浅い地中に、次いで高いレベルのものが地下70メートル未満、最も高いレベルのものは地下70メートル以上の所に埋めることになっている。
 ところが、地下70メートル以上の所で処分するための国の基準は、まだ作られていない。その影響で日本原子力発電は、25年度としていた東海原発(茨城県)の廃炉の完了時期を30年度に先送りした。国内で唯一、原子炉の廃炉が「1996年に完了した」とうたう日本原子力研究開発機構(当時は日本原子力研究所)の試験炉「JPDR」(茨城県)でも、汚染ごみは敷地内に残ったままだ。
 これらの状況を踏まえると、福島第1原発の汚染ごみの処分も困難が予想される。政府・東電は処理水の処分方法を決めるのに時間がかかっただけに、NPO法人・原子力資料情報室の伴英幸共同代表は「なし崩しで敷地内に処分するのは避けるべきだ」と指摘。「どこまで『後片付け』すれば廃炉完了となるのか、国は地元と現実的な議論を始める時期に来ている」と話す。
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