[2021_06_03_05]「不当判決」原告怒りの声原発避難者訴訟 「気持ち届かなかった」(新潟日報2021年6月3日)
 
参照元
「不当判決」原告怒りの声原発避難者訴訟 「気持ち届かなかった」

 多くの別れを重ねてきた。避難先で新しい出会いに救われもしたが、不安と葛藤がつきまとう10年だった。2日、新潟地裁が判決を言い渡した東京電力福島第1原発事故による避難者集団訴訟。地裁は国の責任を認めなかった。「不当判決だ」。避難者からは怒りの声が上がった。どうして、避難生活のありのままと向き合ってくれないのか。一人一人の思いと苦しみは、置き去りにされている。
 「避難者の気持ちは届かなかった。8年も争って、こんな結果なんて」。福島県郡山市から、娘とともに避難する原告の女性(47)は新潟地裁の判決を聞き、ため息をついた。
 原発事故から間もない2011年5月、夫と離れ、4歳と7歳だった娘と新潟市に避難した。当時、郡山市内の放射線量は毎時約1・6マイクロシーベルト(事故前は0・05マイクロシーベルト前後)。「逃げよう」。国は郡山市に避難指示を出さなかったが、放射線の脅威と娘たちの健康への不安が背中を押した。
 不安から逃れるための決断だったが、新たな苦悩が次々と生まれた。知人はいない。頼れる人もいない…。何より、娘たちを父親と離ればなれにしたことが心苦しかった。
 二重生活による経済的な不安も大きかった。17年3月に住宅無償提供が打ち切られ、家計はさらに苦しくなった。「できることは全てやろう」。自身に言い聞かせ、2人の娘を育てながら、パートをこなした。
 一昨年の春、長女は高校進学のタイミングで帰郷した。夫とは長く離れた暮らしがすれ違いを生み、昨年、離婚した。
 避難前はマイホームを持つ夢があった。「結局こんなことになってしまった。避難していなければ違ったのかな」。言葉を詰まらせ、涙を拭った。
 来春は次女の高校受験を控えている。次女も福島へ戻るか悩んでいて、帰郷すればようやく見つけた新潟でのフルタイムの仕事を手放すことになってしまう。「福島に戻れば、また一からの生活。どこに身を置けばいいのか分からない」
 裁判では勇気を振り絞って法廷に立ち、意見陳述をした。「私たちは何も悪いことはしていません。ただ、家族で普通の暮らしをしたいだけです」。一方、これまで国と東電は「いつでも帰還できる状況の中で避難生活の苦痛は各人の選択の結果」などと避難者を逆なでする主張をしてきた。
 そして、この日の判決。新潟地裁は避難の合理性と相当性を認めた一方で、国の責任は認めなかった。女性は「避難したことが間違いではないと認められたのは良かった。でも、国には避難を尊重してほしい。最後まで面倒を見てほしい」と強く思う。
 国も東電も被害者一人一人の思いに向き合わず、一方的に線引きをして避難者を区別しているように感じる。「区域内外なんて関係なく、避難したつらさは同じ。原発事故さえなければ避難なんてしていない」

 (報道部・原田こころ)

 ◎判決に不満ともどかしさ 弁護団会見

 原告弁護団が判決言い渡し後に開いた記者会見では、判決に対する不満ともどかしさが渦巻いた。国の責任が認められず、支援者からは「結局、裁判所は個々の被害者の苦しみと向き合っていない」と怒りの声が飛んだ。
 判決では、原告側の主張が認められた点もあった。国から避難を求められた区域の外からの「自主避難」でも合理性はある。ふるさとを喪失した苦しみも賠償対象の精神的苦痛に当たる−。
 「ならば、なぜ…」。弁護団は、裁判所が判決で認めた損害と賠償額との落差に落胆した。今回、多くの自主避難の原告に支払いが命じられたのは、大人1人当たり約23万円。中間指針は上回ったが、長い避難生活と負担に見合う額とは言えないものだった。
 遠藤達雄弁護団長は「8年かけてこの判決は非常に残念」と声を落とした。離婚、偏見、将来の不安など、裁判で多くの原告が訴えた被害を念頭に、近藤明彦弁護士は「どれだけの『生活破壊』が起こっているか、裁判所は分かっていない」と語気を強めた。
 国の責任についても、原告には矛盾しているように感じる。国が2002年の段階で福島第1原発が津波で被災する可能性を把握していたと認めた一方、「当時その予見可能性の程度は低かった」として原告の主張を退けた。
 弁護団は「不当判決だ」として、会見の席で控訴する方針を表明。近藤弁護士は「主張が認められたところもあり、光はゼロではない。われわれの訴えの足りなかったところを(控訴審で)しっかり訴えていきたい」と強調した。
 南相馬市から避難し、胎内市に住む原告の泉田昭さん(73)は、地裁の外で判決を待った。泉田さんは「国が避難区域の内外で住民を分断しようとしている」と感じる。「そうなったら本当の負け。区域に関係なく、一緒に控訴審を闘いたい」と今後を見据えた。
KEY_WORD:FUKU1_: