[2021_06_04_01]次第に明かされる火星の謎 中国探査車が着陸成功(島村英紀2021年6月4日)
 
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次第に明かされる火星の謎 中国探査車が着陸成功

 中国の探査車「祝融号」が火星への着陸に成功して画像を送り始めた。
 火星の周回軌道への投入は米国、ソ連(ロシア)、欧州、インド、アラブ首長国連邦(UAE)についで6番目だ。日本は周回軌道への投入に失敗した。
 だが、着陸は一段と難しい。中国は米国に続いて着陸に成功した2番目の国になった。
 火星は地球から遠くて、1秒に30万キロメートを走る電波の通信でも片道10分以上かかる。トラブルが起きても地球からの指令は間に合わない。
 また大気の薄い火星への着陸は技術的に難しい。火星は月の2倍の大きな重力がある一方で、大気が地球の1%しかない。このためパラシュートだけでは十分に減速できない。ロケット噴射を併用した複雑な減速方法が必要だ。
 母船に積まれた探査車は猛スピードで大気圏に突入し、急速な減速をしたあと高度11キロメートルでパラシュートを開いて、高度2キロメートルで母船と探査車がカプセルから離れる。最終的に時速3キロメートルの速度で地上約20メートルの高度からはロケットで浮上したまま着陸機をワイヤーで地面へと吊り下ろす。これらを地球からの指令なしに正確に行わなければならない。タイミングを少しでも誤れば地表に激突してしまう。
 過去には各国が失敗している。欧州宇宙機関(ESA)は2016年に探査車の着陸を試みたが、着陸機「スキャパレリ」は火星に墜落して木っ端みじんになった。時速300キロメートルを超える速度で火星に激突したと思われる。これはロシアと協力して進めている火星探査計画の目玉だった。ESAにとっては二度目の失敗で、2003年にも火星への着陸に失敗している。
 1971年に火星に軟着陸した旧ソ連の「マルス3号」は火星表面に軟着陸した初の探査機ではある。しかし、送ってきたデータはグレーの画像1枚だけだった。着陸してから2分足らずで通信は途絶えた。
 他方、米国NASA(米国航空宇宙局)は1976年以来、9つの探査機が到着している。数ヶ月前から「パーシビアランス」が、中国の探査車から約2000キロほど離れたところで走行中だ。
 だが、14年前に着陸に成功した「オポチュニティ」は砂嵐のせいで太陽光発電ができず2018年から休眠したままだ。NASAはその後毎日、目覚まし信号を送り続けているが、反応はない。
 中国の探査車には地中100メートルまで探れるレーダーのほか、磁場センサー、気象観測機器、マルチスペクトルカメラ、航法・地形カメラ、地表の化合物の検出器を搭載している。
 着陸場所である「ユートピア平原」は火星最大の盆地だ。この場所は地下に豊富な氷の層がある可能性がある。将来、有人火星探査や移住を行うときに、水を現地で調達することは重要である。
 中国は2028年に2機の探査機を打ち上げてサンプルを地球に持って帰る予定だ。パーシビアランスが集めたサンプルも2026年にNASAとESAの共同計画で後から来る回収機で地球に戻る。
 地球の隣だが、火山がいつまで活動していたかなど昔からナゾの多い火星の姿は、こうして次第に明らかになっていくのに違いない。
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