[2021_07_30_03]浪江・津島原発訴訟、10億円支払い命令 原状回復請求は認めず(毎日新聞2021年7月30日)
 
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浪江・津島原発訴訟、10億円支払い命令 原状回復請求は認めず

 東京電力福島第1原発事故で帰還困難区域となった福島県浪江町津島地区の住民640人が、国と東電に地区の空間放射線量を事故前の水準に戻す原状回復や慰謝料の支払いなどを求めた集団訴訟の判決で、福島地裁郡山支部(佐々木健二裁判長、本村洋平裁判長代読)は30日、国と東電の責任を認め、居住実態のない6人を除いた634人に総額約10億円(1人当たり120万〜150万円)を支払うよう命じた。原状回復請求は退けた。
 判決は、2002年7月に国の地震調査研究推進本部が示した地震予測「長期評価」に基づき、国は同年までに敷地高を超える津波を予見できた上、06年には第1原発の脆弱(ぜいじゃく)性を認識できたと認定した。さらに、国が東電に対策を命じていれば津波の影響は相当程度軽減され、事故は回避できたと指摘。東電に規制権限を行使しなかったのは著しく合理性を欠き、違法と断じた。国と東電を相手取った原発集団訴訟20件(17地裁、3高裁)のうち、国の責任を認めた判決は11例目。
 原告側は事故によって高くなった津島地区の空間放射線量について、@国と東電には事故前の水準まで低下させる義務があることの確認A一般人の被ばく線量限度とされる毎時0・23マイクロシーベルトまで下げること――を求めていた。判決は@について、個人の土地所有権と人格権が及ぶ範囲の放射性物質の除去を求める権利は認めうるが、地区全域からの除去を求めることはできない、として棄却。Aについては除染方法が特定されておらず訴えは不適法として却下した。
 原告団長の今野秀則さん(74)は「苦しい避難生活のことを皆で意見陳述したのに、原状回復の請求が退けられた。この10年は何だったのか、そう思うと悔しい」と述べた。弁護団長の原和良弁護士は「国と東電の責任を正面から認めた。他の原発集団訴訟にとって大きな励ましになる」と評価。原状回復請求については「今後につながる糸口もあった。前進ではある」と語った。
 判決後、国は「原発事故を踏まえて策定された新規制基準への適合性審査を厳格に進め、適切な規制を行ってまいります」、東電は「判決内容を精査し、対応を検討します」とのコメントを出した。【肥沼直寛、寺町六花、磯貝映奈】
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