[2021_08_25_01]福島第一原発の汚染水(放射性物質)を海に流してはならない (上) (2回の連載) 経産省…「汚染水処理の決定と責任は東京電力にある」 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ舎2021年8月25日)
 
参照元
福島第一原発の汚染水(放射性物質)を海に流してはならない (上) (2回の連載) 経産省…「汚染水処理の決定と責任は東京電力にある」 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

項目紹介
(1)4/13政府決定の誤り
(2)「関係閣僚等会議」に決定の権限はあるのか
   経産省…「汚染水処理の決定と責任は東京電力にある」
(3)逃げ回る東京電力
  「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」の約束違反
  以上を(上)に掲載

(4)汚染水の排出は環境や人体に影響を与える
(5)汚染水の海洋排出は誰に利益があるのか
(6)まだ放出まで時間がある
(7)新型コロナウイルス感染症に襲われる東電の現場
  以上を(下)に掲載

(1)4/13政府決定の誤り

 4月13日、政府は福島第一原発の敷地のタンク約1000基に貯蔵されている「汚染水(ALPS・多核種除去設備の処理水)」について「廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議」を開催し、海洋放出による処分を「決定」した。
 事故から10年、汚染水対策の議論が始まってからも6年余経ってからの海への放出「決定」。
 政府も東電も長い時間をかけて、何ら建設的な対処方法を検討、採用せずに最も安易で最も影響のある、地元の反対も強い方法を強権的に採用した。
 強く抗議すると共に、これからでも遅くはないから安全性の高い、地元も多くの市民も納得できる方法を考え、採用することを求める。
 決定がこの時期になった背景としてはオリンピックと総選挙があると考えられる。
 放出を決定した場合、中国、韓国などが外交問題として批判することは予想できるので、開催まで100日と迫るオリンピックの時期までに一定の解決ができるかもしれないと考えたのであろう。出来なくても間際の決定よりはましと思ったのかも知れない。
 また、秋までに想定される総選挙に対しても、今決定をすれば忘れやすい国民は選挙まで政治問題として覚えていないとの考えもあったのだろう。
 昨年10月に一端は決定しかけた菅内閣だったが、地元や全漁連などからの強い反対が変わらないため一端は先送りをした。しかし決定のタイミングを計っていた政府は、今がギリギリのタイミングだと判断し、菅首相が決断したと思われる。

(2)「関係閣僚等会議」に決定の権限はあるのか
  経産省…「汚染水処理の決定と責任は東京電力にある」

 経産省はこれまで議員への説明の回答として「汚染水処理の決定と責任は東京電力にある」と答えている。
 では関係閣僚等会議は、汚染水海洋投棄を決定できる権限を有しているのか。
 そもそも「関係閣僚等会議」とは、様々な行政課題について、それを検討するために随時設置される協議機関に過ぎない。
 その問題に関係の深い省庁の大臣によって構成される。
 汚染水については「廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議」で議論されたが、この組織は原子力災害本部の下に、内閣官房長官を議長として設置されたものに過ぎない。
 現場は東京電力の原発敷地であり所有者は東京電力である。少なくても敷地内に存在する放射性物質の管理、処分を考え、実施するのは所有者である東電の責任だ。
 実質的に東電の株の過半数を廃炉支援機構(つまり国)が保有しているとしても、国が決定を押しつけることなどできないはずだ。
 まして、この会議は災害対策本部の下部組織に過ぎない。法令上、決定をする権能を有してなどいない。
 実際に、経産省にも問い合わせた結果、「汚染水処理の決定権と責任は東電にある」と回答をしているのだ。
 国が行うことができるのは、違法な投棄や排出を規制し、それを差し止めることであり、環境を守る立場だ。不当な廃棄物投棄を事業者に強制することではないのである。
 これは「誰に決定権があるのか」という問題だ。
 汚染水の海洋投棄を「決定」出来る「権限」を有するのは、事業者だけだ。
 投棄して良いか悪いかを別としたら、少なくても国が海洋投棄を決定できる権能を有してはいない。
 逆に問うが、法令上何に基づいて国は汚染水の海洋投棄を決定できるというのだろうか。
 放射性廃棄物の処分について法令に基づき、許可を与える立場にあるのは国の機関である原子力規制庁である。しかし申請もない段階で規制庁が海洋投棄を命ずることなど出来ない。
 敷地内では、放射性廃棄物は管理責任者の下で管理されなければならない。管理能力に欠けるなどの問題があれば是正命令を出すのは国の責任だ。
 放射性廃棄物については、管理することこそ要求されるが投棄することを命ずることは、規制委の責務ではない。
 規制委員会はことあるごとに「東電が責任を持って海洋投棄を決定せよ」と発言してきた。
 海洋投棄を決定し、その方法を明示した処理施設の設置許可申請を出せと言っていたのである。そのような申請があれば直ちに許可して海洋投棄可能にするとの含みの発言である。
 翻って東電は、明らかに躊躇していた。福島県への約束では、一方的に海洋投棄を決定することはできないことを知っているからである。
 関係閣僚会議で海洋投棄を決めようと、これが法令上の義務でも何でも無いので、東電は拒否できるし、私たちは撤回を求めることも出来るのである。

(3)逃げ回る東京電力
  「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」の約束違反

 今回の閣僚会議もそれまでの汚染水対策委員会でも、東電は事業者として主体的に行動してこなかった。
 規制委員会による「特定原子力施設監視・評価検討会」(福島第一原発についてのみ審議を行う会議体)でも、東電は常に国の決定を待つとの姿勢で自らが主体となって汚染水を安全に管理し、減量し、排出を防止することをしてこなかった。
 東電の逃げ回る行為も事態を悪化させる大きな原因であり、強く抗議する。
 処理を巡って東電は2015年8月に「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」と約束した。
 ところがその後は、政府の決定を待つだけの姿勢に終始してきた。
 主体性を放棄したかの東電の姿勢は、東電体質と呼ばれる無責任体制が、ここでも露呈していた。これで関係者と合意形成できるわけがない。以下が、国や東電が県漁連に行った約束の文書だ。
 漁業者は「国も東電も信用できない」「放出についての6年前の約束はどこへいったのか」と反対しているが、6年前にはなんと言っていたのだろうか?

■県漁連が処理水について政府と東京電力に求めた要望と回答の内容
                   (2015年8月)
 【県漁連の要望】
 建屋内の水は多核種除去設備などで処理した後も、発電所内のタンクにて責任を持って厳重に保管管理を行い、漁業者、国民の理解を得られない海洋放出は絶対に行わないこと

 【政府の回答】
 建屋内の汚染水を多核種除去設備で処理した後に残るトリチウムを含む水については、現在、汚染水処理対策委員会に設置したトリチウム水タスクフォースの下で、専門家により、その取り扱いに係るさまざまな技術的な選択肢、効果などを検証しています。
 検証結果については、まず、漁業関係者を含む関係者への丁寧な説明など必要な取り組みを行うこととしており、こうしたプロセスや関係者の理解なしには、いかなる処分も行いません。

 【東電の回答】
 建屋内の汚染水を多核種除去設備で処理した後に残るトリチウムを含む水については、現在、国(汚染水処理対策委員会トリチウム水タスクフォース)において、その取り扱いに係るさまざまな技術的な選択肢、および効果などが検証されております。また、トリチウム分離技術の実証試験も実施中です。
 検証等の結果については、漁業者をはじめ、関係者への丁寧な説明等必要な取組を行うこととしており、こうしたプロセスや関係者の理解なしには、いかなる処分も行わず、多核種除去設備で処理した水は発電所敷地内のタンクに貯留いたします。
 −−−−−−−−−

 東電が県漁連に回答した通り、関係者の理解が得られていない現状では処分は出来ない。その間は貯蔵することが明記されている。
 国も東電も約束を果たさないままに放出を決定したことで、大きな不信を招くことは十分予見できることだった。  (下)に続く

  (初出:8/21山崎ゼミ資料『柏崎刈羽原発と東電の闇・福島第一
     原発の危険な現状』より抜粋)
KEY_WORD:汚染水_:FUKU1_:KASHIWA_: