[2019_02_18_04]経団連会長の「原発巡る公開討論」早くも腰砕け(東洋経済オンライン2019年2月18日)
 
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経団連会長の「原発巡る公開討論」早くも腰砕け

 日本経済団体連合会(経団連)の中西宏明会長(日立製作所会長)が提唱した、原子力発電の是非を巡る「公開討論」が頓挫しかかっている。
 中西会長は大手新聞各社との年初に際するインタビューで、「(原発の是非について)一般公開の討論をすべきだと思う」と述べていた。
 小泉純一郎元首相が顧問を務める市民グループの「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」(原自連)がこれに呼応。2月14日に記者会見を開催し、事務局長の河合弘之弁護士は、1月11日および2月13日の2度にわたり経団連に公開討論会開催の要請書を手渡したことを明らかにした。

■経団連が火消しに回る

 しかし2月13日の申し入れからわずか2日後の15日、経団連は原自連に「現時点において公開討論会を開催する考えはない」と電話で伝えた。
 「現在、4月をメドに電力政策に関する提言を取りまとめているところであり、国民の理解を得るための広報のあり方についても検討中であること」(経団連広報本部)が理由だという。
 原自連の吉原毅会長(城南信用金庫相談役)は、「書面で回答を求めたのに電話で済ませようとしてきた。あくまでも書面回答を待つ」と粘り強く働きかけていく構えだ。
 そもそも事の発端は中西発言だった。1月5日の東京新聞朝刊は、「国民が反対するもの(=原発)はつくれない。全員が反対するものをエネルギー業者や日立製作所といったベンダー(設備納入業者)が無理につくることは民主国家ではない」と、新聞各社のインタビューで中西会長が述べたと伝えている。
 この発言について河合氏は「先進的な意見だ」と高く評価した。吉原氏も、「企業は国民によって支えられている。国民の意思の反することをすれば、企業イメージの低下は免れない。(中西会長の)ビジネスマンとしての考え方が滲み出た発言ではないか」と述べた。
 吉原氏によれば、顧問を務める小泉元首相からは、「公開討論会はすばらしいことだ。頑張ってくれ。僕も出るよ」と激励されたという。
 原自連は昨年1月、「原発ゼロ・自然エネルギー基本法案(骨子案)」を公表。各政党に脱原発への取り組みを要請した。これに呼応する形で立憲民主党は昨年3月、社民党など3野党とともに「すべての原発の即時停止、5年以内の廃炉」などを柱とした法案を国会に提出した。だが、与党の反対から審議に入れないまま、現在に至っている。
 そうした中で、中西会長による「公開討論」の発言が飛び出した。中西会長はその後の1月15日の経団連の定例記者会見で、「原発の再稼働はどんどんやるべきだ」と発言。内容を報じた読売新聞(1月16日朝刊)によれば、この場でも「公開での討論を行いたい考えを示した」という。
 同じ時期に、自身が会長を務める日立がイギリスの原発事業の中断を発表、多額の損失処理に見舞われることが明らかになっている。原発推進がままならない中、国(経済産業省)任せでは事が進まないとの焦りからの発言とも読み取れる。

■試される中西会長の度量

 しかし、中西会長は早々にトーンダウンした。2月14日に中部電力・浜岡原発を視察した中西会長は、「まずは提言をつくることが優先課題」と記者団に答えた。
 原自連によれば「1月11日の公開討論会の呼びかけに際しても、まずは提言の公表を見てもらいたいとの返答があった」(河合氏)という。河合氏は「それでは意味がない。中身がまとまってから討論しても、今までと同じく意見対立にしかならない。だからこそ再び申し入れた」と説明する。だが、経団連のガードは堅く、門戸は閉ざされている。
 日本では原発を含むエネルギー政策が国民的レベルで議論されたことは皆無に等しい。それだけに、中西会長の言動に注目が集まったが、早くも腰砕けになった。
 吉原氏は「今こそ経済界と市民が本音で話し、問題解決に取り組むべきだ」と述べたうえで、「時期尚早」とした中西会長の翻意に期待しているという。

岡田 広行 :東洋経済 記者

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