[2018_05_23_03]東京電力の東通原発計画再始動をとめよう 山崎久隆(たんぽぽ舎副代表)(たんぽぽ舎2018年5月23日)
 
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東京電力の東通原発計画再始動をとめよう 山崎久隆(たんぽぽ舎副代表)


 青森県東通村には現在、2007年に運転を開始した東北電力東通原発1号機があり、その北側に隣接して、東京電力の東通原発予定地が広がる。
 既に専用港の防波堤は完成し、敷地には1号機の炉心位置に当たるところが矩形に造成されている。
 東電の東通原発は、2011年1月25日、大震災の1月半前に着工した。
 その時点では既に土地造成は進んでいた。設置許可前に建設準備工事と称して2006年12月から土地の造成や港湾施設の建設などを開始していた。その費用は東通原発建設仮勘定に計上されている。完成すれば全て発電所の建設費用として経費に組み込まれることになっている。
 このようなやり方は原発建設ではいつも行われてきた。原子炉設置許可などの認可手続きが完了次第、直ちに上物を作ることが出来るようにしている。
 もし、最近発生しているように、断層の評価などを巡り原発の設置許可がされなかったら、負担した費用は全て電力会社の持ち出しになるから自己責任で行っているとするのは規制庁の姿勢だ。しかしそれは結局電気料金に反映されて消費者の負担となる。
 運転再開の目処が立たない柏崎刈羽原発に6700億円も投資したり、建設中の原発への投資が継続されれば、全部電気料金に跳ね返るわけだから料金は高止まりするに決まっている。原発があるから電気料金が高い事例の一つだ。
 末尾の年表(「下」に掲載)の通り、東通原発は震災直前に設置許可が出された原発であり、既に着工していたから大間などと同様に「建設中」にカウントされている。
 現在の規制委や政府の立場は、新規立地する原発については当面凍結するが、建設中だった原発で規制委員会の新規制基準適合性審査を通れば完成させて運転できるという。もちろん甚だしい欺瞞である。
 原発震災後の政府方針は原発からの脱却、依存度を低減させることになっているが、具体的には資源エネルギー庁の長期エネルギー計画では2030年度で20〜23%を原発に依存することとされている。
 現在6基の原発が再稼働をしているが、再稼働申請中を含めて26基が仮に全部動いてもこの比率には届かないし、2030年以降の見通しも立っていない。そこで常に持ち出されるのは新増設の解禁である。
 結局、3.11以前の原発依存体制に戻るだけのことだ。そこには何の進歩も発展も反省もない。

1.東通原発の建設は不可能

 現在、下北半島では東北電力が建てた東通原発と六ヶ所再処理工場の規制基準適合性審査が続いている。
 争点は直下の活断層。敷地内を走る断層が活断層であると地震・地質学・変動地形学の専門家が主張している。それに対し規制委と東北電力が反論を試みている。
 しかし審査会合では、敷地内に多数の活断層が存在するとされ、特に取水口を切る断層は安全上重要な取水口を破損させる危険性があることから、冷却用海水の経路を分岐して別の取り入れ口を作ることとしている。
 これらの断層を延長すれば東電が予定する東通原発の敷地をも通過する。(例えばF−3やF−8)いくつもの断層が存在するのは確実と見られる。
 また、下北半島の太平洋側に存在する太平洋プレートと北米(オホーツク)プレートの境界付近で発生するプレート間地震及び海底活断層(例えば大陸棚外縁断層)、内陸断層地震の規模や影響についても、近年多くの知見が明らかになってきており、地震本部は東北地方太平洋沖地震に匹敵するマグニチュード9クラスの大地震が千島列島から北海道・青森県沖にかけて起こる可能性を指摘している。
 もし大地震と大津波が発生すれば、東通原発だけではなく六ヶ所再処理工場も大規模な被害を受ける。再処理工場と東通原発の距離は約25km。他にもウラン濃縮施設やMOX製造工場も予定される。連鎖事故が発生した場合、大惨事になる。
 同じ下北半島では、先端に近いところに大間原発が建設中、むつ市には使用済燃料中間貯蔵施設が稼働予定で、再処理工場南側には日米共同使用の三沢空軍基地もある。
 危険なのは地震と津波だけではない。恐山や八甲田山などの活火山からも遠くない。十和田カルデラを含む破局的な噴火により安全設備が機能しなくなることへの懸念も高い。さらに有珠山など北海道の火山にも気を配らなければならない。
 この地で原子力施設の新設、再稼働を考えること自体、無謀というほかはない。

2.東京電力と東北電力

 この原発の設置認可を得たのは東電であり、現行法上は建設、運転は東電だけができる。しかし福島第一原発事故により事実上は経営破綻を来し、建設や運転を実行することは不可能である。
 東電は売り上げから数十兆円規模の賠償費用や廃炉費用を捻出しなければならない。現在の22兆円は仮の数字であり確定しているわけではない。70兆円規模になるとの試算もある。新たな投資で原発を建てる余裕はないし、そんな資金があるのなら賠償こそが優先されなければならない。
 そこで登場するのが「共同事業方式」だ。以前から東通原発に投資してくれる事業者を募っていたようだ。
 最有力とされていたのは東北電力だったが、破綻状態とはいえ年間6兆円の売り上げのある東電と、その三分の一の規模の東北電力では資金力に差がありすぎる。
 また、東北電力には過去の経験がしこりとなって残っている。
 東北地方の主要送電線は東京電力と東北電力の共同開発で設置したものが多い。容量の多くは東北地方の原発の電気を関東に送るためだった。
 しかし原発が全て止まっている現状では巨額の投資を回収できる見通しもない。(それこそ新電力に解放すれば良い。)
 今後も東京電力に投資したら経営上のリスクがある。一方は巨大電力であり福島第一原発事故の後も国が手厚い保護を行っているが、東北電力が経営危機に瀕しても同じ救済はまずない。
 東日本大震災以後、電力自由化に伴い地域独占が解消されたことで、東北電力は東京ガスと組んでガス・電力供給事業を始めており、東電から最も多くの顧客が移動したのは東京ガスだ。 (下)に続く

3.関西電力の使用済燃料中間貯蔵計画

 東北以外に、関電、中部電の名も上がっている。このあたりになると原発参入に何処まで本気かは、かなり疑わしい。使用済燃料の中間貯蔵施設立地に悩む関電が東北地方に目を付けているのではないかと疑われる。特に関電はむつ市に燃料を運びたがっている。
 むつ市に設立された東電と日本原子力発電の子会社「リサイクル燃料貯蔵」については今年1月に関電の使用済燃料を運ぶ計画があると日経新聞等で報じられて地元では大騒ぎになった。
 むつ市長が「とうてい受け入れられない」「協議に応じることは現時点で全く考えていない」。リサイクル燃料貯蔵側は「関電からの受け入れは想定していない」。関電も「むつ市での貯蔵は検討していない」などと関係者総出で火消しに躍起になっているが、水面下で様々な折衝が行われているだろうことは容易に想像がつく。
 関電は、中間貯蔵施設を原発のある福井県ではなく県外に設置するとしている。2020年頃までに計画地を決定し、2030年頃に操業を開始するとし、2018年中には候補地を明らかにするとした。「リサイクル燃料貯蔵センター」と名称まで既成事実のようにホームページに掲載している。
 関電の原発では、再稼働した高浜原発の使用済燃料プールが満杯に近づいている。管理容量を超えるのは約6年後。他の原発では敷地内に乾式貯蔵施設を作って凌ぐが、高浜原発では県外に搬出すると約束したので原発敷地内での乾式貯蔵は最初から選択肢にはない。
 3月29日に東電は、唐突に柏崎刈羽原発から使用済燃料69体を、7月から9月にかけて「リサイクル燃料貯蔵」に輸送するとプレス発表を行った。この施設は今年後半の操業開始を目指して現在、原子力規制委員会の審査を受けている段階だというのに。
 柏崎刈羽原発は再稼働しているわけではない。従って輸送に緊急性はないから、この輸送は「第1号は東電の燃料を」といった意味なのであろう。今後輸送される使用済燃料の中には、別の原発のものがあるかもしれない。

4.原子力事業再編との関係

 現在、事実上経営破綻状態の電力会社がもう一つある。日本原子力発電(原電)だ。
 保有する原発のうち、稼働可能な原発は一つもない。
 敦賀原発2号機は真下に活断層の疑いで再稼働審査でも厳しい指摘が続いている。
 東海第二原発は運転開始40年目が今年11月27日に迫り、この日までに審査を通過していなければ運転できない。20年延長審査と同時審査が続くが、必要な補正書の提出も遅れており、時間切れの可能性もある。
 その中で「経理的基礎」問題が大きく立ちはだかっている。
 経理的基礎とは原子炉等規制法第43条の3の6第1項第2号に規定され、十分な経理的裏付けを有しない会社が原子力事業を行ってはならないと規定している。
 対津波、耐震性強化などで少なくても1740億円の資金が必要なのに売る電気が作れない原電には借入も金融機関から難色を示され、必要な資金調達に赤信号がともっている。
 規制委は、電力会社等の債務保証を取り付けるなどして必要な資金調達ができることを証明せよと要求した。
 東電と東北電が文書を提出し、原電の資金調達に協力することを表明したが、東北電力は「債務保証等」と記載したのに東電は「資金支援」とだけ記載した。
 これは、東電自身が莫大な債務を背負い、事実上経営破綻状態にあることから、東電の債務保証に金融機関が難色を示すかも知れず、それをかわすためかと思われるが、それに加え原電に見返りとして今後の原子力事業について協力を求める「取引」の性格を持っているからだと思われる。
 見返りとしては、リサイクル燃料貯蔵は東電と原電の共同出資で設立された会社であるから、東電の意向に沿って動くことを求めたり、東通原発の建設に際して共同事業者として名を連ね、将来の原子力事業再編への中心になることをも含むのではないかと思われる。
 東電が東海第二原発の再稼働に関わることは、東通原発の建設再開と同時にむつ市のリサイクル燃料貯蔵を中間貯蔵施設として他電力の使用済燃料の貯蔵とセットになった、大きな原子力事業の再編成の始まりに位置づけられている可能性がある。
 この動きを止めるためには、抗議行動を各地に広めて、一つ一つに反対の声を集中していかなければならない。(了)

東通原発1号機
電気出力:138万5千キロワット
原子炉型式:改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)

1965年5月17日東通村議会、原発誘致決議
   10月2日青森県議会、誘致請願採択
1992年8月21日白糠・小田野沢両漁協と漁業補償協定締結
1993年3月30日93年度電力施設計画に初計上(110万kW×2基)
   7月6日尻労・猿ヶ森両漁協と漁業補償協定締結
   11月1日老部川内水面漁協と漁業補償協定締結
1995年1月24日泊漁協と漁業補償協定締結
1999年3月29日電力供給計画で138.5万kW×2基に変更届出
2003年5月9日白糠・小田野沢両漁協と変更漁業補償協定締結
   7月30日環境影響評価書届出
   8月20日環境影響評価書について確定通知受領
   11月19日東通原発1、2号機設置第一次公開ヒアリング
2005年1月21日尻労・猿ヶ森両漁協と変更漁業補償協定締結
2006年1月23日老部川内水面漁協と変更漁業補償協定締結
   3月30日重要電源開発地点の指定申請
   9月13日重要電源開発地点の指定
   9月29日東通源原発1号機の原子炉設置許可を申請
   12月4日準備工事開始
2008年5月28日泊漁協と変更漁業補償協定締結
2010年4月12日経産大臣から原子力委員会と安全委員会へ諮問
   8月11日東通原発1号機設置第二次公開ヒアリング開催
   12月13日原子力安全委員会から経済産業大臣に答申
   12月14日原子力委員会から経済産業大臣に答申
   12月24日東通原発1号機の原子炉設置許可
2011年1月25日東電1号機着工を発表

   (初出:月刊「たんぽぽニュース」5月、No269)
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