[2021_09_15_01]島根原発2号機 再稼働に必要な審査に合格 原子力規制委 (NHK2021年9月15日)
 
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島根原発2号機 再稼働に必要な審査に合格 原子力規制委

 中国電力が再稼働を目指す島根原子力発電所2号機について、原子力規制委員会は再稼働に必要な審査に合格したことを示す審査書を正式に取りまとめました。
 原子力規制委員会はことし6月、島根原発2号機が規制基準に適合しているとする審査書の案をまとめ、一般からの意見を募っていました。
 15日の定例会では「地震の想定が過小評価だ」などといった意見が報告されましたが、規制委員会は中国電力が示した対策で妥当だと評価しました。
 そのうえで審査書を正式に取りまとめ、島根原発2号機は再稼働に必要な審査に合格しました。
 審査に合格した原発は全国で17基目となります。
 島根原発は、2011年に事故を起こした東京電力の福島第一原発と同じ「沸騰水型」と呼ばれるタイプで、同型の原発ではすでに全国で4基が合格していますが、必要な工事が残っていることや地元自治体の了解が得られていないことを理由にいずれも再稼働していません。
 島根原発2号機について中国電力は、耐震など再稼働に必要な工事を今年度のなるべく早い時期に完了することを目指していますが、原子力規制庁は、中国電力が今後提出する詳細な工事計画の確認に「1年程度かかる可能性がある」という見通しを示しています。
 さらに、再稼働には地元自治体の了解が必要で、具体的な時期は見通せていません。
 また、島根原発は全国で唯一、県庁所在地に立地し、30キロ圏内に全国で3番目に多いおよそ46万人が住んでいて、事故に備えた避難計画の実効性を高められるかも課題です。
 中国電力は島根原発について、1号機は廃炉を決め3号機は稼働を目指して審査を受けています。
 島根原発2号機の審査では、地震や津波といった自然災害への評価が妥当かどうかが焦点となりました。
 その一つが、原発で想定される最大の地震の揺れ「基準地震動」です。
 中国電力は、2号機の審査を申請した当初は、原発から2キロほど南にある活断層「宍道断層」の長さを22キロとし、基準地震動を最大600ガルと評価していました。
 しかし、規制委員会は「東西に延びる活断層の両端にある地層について、データが不十分だ」などと指摘。
 中国電力は追加の調査を実施したうえで、最終的に活断層の長さを39キロと評価し直し、基準地震動も最大820ガルまで引き上げました。
 「宍道断層」について中国電力は、1998年に初めて活断層の存在を認めますが、当時は長さを8キロと評価。
 今回の審査を通じて、活断層の長さは当初の5倍に見直されました。
 基準地震動の引き上げに伴い、中国電力は配管などの設備で耐震補強工事を余儀なくされ、完成予定は今年度中としています。
 また、想定される最大の津波の高さは、申請当初、隣接する鳥取県が想定した津波評価を反映し、最大で9.5メートルとしていました。
 その後、規制委員会から「原発の沖合の防波堤が地震で機能しなくなった場合も評価すべきだ」という指摘を受け、より厳しい条件で解析し直し、津波の想定を11.9メートルに引き上げました。
 中国電力は7年前、海抜15メートルの高さの防波壁を建設しましたが、津波で押し流された漁船が防波壁に衝突する可能性を考慮し、強度を高める工事を行うか検討しています。
 このほか、火山の影響も検討し、島根県の三瓶山が噴火した場合、敷地内に積もる火山灰を申請時の厚さ2センチから、56センチまで引き上げて評価することになりました。
 火山灰が積もると原子炉などを冷却するための非常用発電機のフィルターが目詰まりして運転できなくなるおそれがありますが、中国電力は、フィルターを定期的に交換するなどして対応できるとしました。
 審査を申請した当初、中国電力が評価した自然災害への想定はいずれも甘く、規制委員会の指摘を受けて見直すこととなり、このほど、ようやく対策が妥当だと評価されましたが、申請から8年かかりました。
 ただ、再稼働は早くても来年春までを予定する耐震補強工事が完了したあとで、このほかにも、設備の耐震性などをまとめた書類のチェックも残っているため、現時点で具体的な再稼働の時期は見通せていません。

「沸騰水型」で再稼働した原発なし

 10年前の東京電力 福島第一原発の事故のあと、原子力規制委員会による新しい規制基準の審査に合格した原発は、15日の島根原発2号機を含め10原発17基です。
 このうち、6原発10基が再稼働しましたが、いずれも「加圧水型」と呼ばれる原発で、福島第一原発と同じ「沸騰水型」で再稼働した原発はありません。
 その背景には「加圧水型」の審査が先行したことに加えて、原発の再稼働に必要な地元自治体の了解が得られていないことや、安全性向上のための対策工事が終わっていないことが主な理由です。
 茨城県にある日本原子力発電の東海第二原発や、新潟県にある東京電力の柏崎刈羽原発6号機と7号機は対策工事が終わっておらず、地元自治体の了解も得られていません。
 また、宮城県にある東北電力の女川原発2号機は去年11月、地元の宮城県が再稼働に同意しましたが、対策工事が完了するのは来年度中の予定で、それ以降の再稼働を目指しています。

避難計画の実効性 高められるか課題

 島根原発は全国で唯一、県庁所在地に立地し、30キロ圏内に全国で3番目に多いおよそ46万人が住んでいて、避難計画の実効性を高められるかも課題です。
 国や島根県などが避難についてまとめた計画は、今月7日、政府の原子力防災会議で了承されました。
 計画では原発事故が起きた場合、5キロ圏内の松江市の人たちは原則、自家用車やバスで島根県内の30キロ以上離れた場所に避難します。
 5キロから30キロの間にいる島根県と鳥取県の人たちは、無用な被ばくを避けるため、自宅や避難所などにとどまる「屋内退避」を行いますが、放射線量が一定値を超えた場合、県内だけでなく広島県や岡山県への広域避難などを行います。
 また、島根県は、県庁が原発からおよそ9キロに位置しているため、線量が高まった場合、県庁の機能を原発から30キロ程度離れた施設に移転することも想定しています。
 ただ、事前に計画を定めていても、自力での避難が難しい人への支援や、自然災害で避難経路が使えない際の対応、避難所での運営など、さまざまな点で実効性を高められるか課題が残されています。
 さらに、新型コロナウイルスなど、感染症が流行している際の対応も必要です。
 来年2月には、島根県の原子力防災訓練が行われる予定ですが、継続的な訓練を通じて改善し続けることが求められます。

中国電力「さらなる安全性の向上に取り組む」

 島根原発2号機を審査した原子力規制庁の担当者は15日午後、中国電力に審査合格を示す文書を手渡しました。
 文書を受け取った中国電力の大元宏朗東京支社長は「審査を通じて原発の安全性について最大限の取り組みができたのではないかと思う。さらなる安全性の向上に向けて引き続き取り組んでいく」と述べました。
 再稼働の時期については、地域の理解が重要だとしたうえで「具体的な目標を含め、今後どうなるかなど、言う段階にない」とし、明言を避けました。
 また、再稼働に必要な対策工事について「今年度のできるだけ早い時期の完了を目指し、鋭意取り組んでいる。延期を前提にしていないが、審査結果を踏まえ工程を改めて精査したい」と述べました。

原子力規制委「気を引き締め取り組みを」

 原子力規制委員会の更田豊志委員長は「規制基準の要求を満たしていることにはなるが、原発の安全性の向上においてはステップの一つにすぎない。事故の防止や事故時の対処には、技術的な能力や意識のさらなる向上が極めて重要で、中国電力には改めて気を引き締めて取り組んでもらいたい」と述べました。

地元は

 島根原発2号機が再稼働に必要な原子力規制委員会の審査に合格したことについて地元からはさまざまな意見が聞かれました。
 松江市の61歳の女性は「できたら原発は廃止してほしい。原発があまりに近くにあるのでOKとするのは難しい」と話していました。
 松江市の会社員の49歳男性は「原発がないにこしたことはないが、電力が必要ならしかたがないし、そこで働いている人もいる。県や市には原発の安全性をはっきりさせてほしい」と話していました。
 松江市の19歳の男子大学生は「大学でフランスの原発のことを学んでいたので興味深い。日本は自然災害が多いので安全面では心配だがクリーンで効率的にエネルギーを作れるという点で再稼働に賛成だ」と話していました。
 松江市の70代の夫婦は「足腰が悪く、車の免許も返納したので何か起きても確実に遠くに避難できるか分からない」と話していました。
 出雲市から松江市に通学している20歳の女子大学生は「事故があったときの対策が課題だと思う。本当に安全かどうか分からないので原発には反対だ」と話していました。
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