【記事57870】東電福島第一原発大事故の責任を問う_勝俣・武藤・武黒の刑事裁判始まる_強制起訴から公判へ〜やっと裁判、長い年月がかかった_山崎久隆(たんぽぽ舎)(たんぽぽ舎2017年8月7日)
 
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東電福島第一原発大事故の責任を問う_勝俣・武藤・武黒の刑事裁判始まる_強制起訴から公判へ〜やっと裁判、長い年月がかかった_山崎久隆(たんぽぽ舎)

◎強制起訴から1年4ヶ月…東京地検が悪い(2回も不起訴)
 東電の取締役3名、勝俣恒久元会長、武藤栄元副社長、武黒一郎元副社長に対する「業務上過失致死傷罪」の刑事裁判が6月30日、初公判を迎えた。
 2011年3月11日に発生した福島第一原発事故で大量の放射性物質を拡散させ、16万人あまりの住民が避難を強いられた。
 その際に大熊町の双葉病院や介護施設のドーヴィル双葉から避難した患者44名が死亡、事故収束に当たった作業員など13名が負傷した、業務上過失致死傷罪を問う刑事裁判が始まった。
 刑事告発が原発震災の翌年2012年6月、2013年9月に検察が不起訴処分にしたため、同年10月に経営陣6名に絞っての検察審査会への申し立て。
 2014年7月に勝俣、武藤、武黒の3名について起訴相当の議決があり、検察が再度捜査したものの2015年1月に東京地検が改めて3名を不起訴としたため、同年7月31日に第5検察審査会は再度起訴相当の議決を行った。検察審査会が2回「起訴相当だ」と議決した場合、被疑者は自動的に起訴される。その後、裁判所が指定した弁護士が検察官役として立証を担う。
 1万4千名あまりの市民が、東電取締役や国の責任者など40名を告発してから5年、ようやく責任を追及する刑事裁判が始まった。

◎訴因…東電は以前から巨大地震と津波発生を予見できていた
 原発が炉心溶融を起こし放射性物質を拡散させるに至った最大の原因は、福島県沖を含む太平洋岸において発生する可能性が指摘されていた地震と津波だった。
 東電は起訴された勝俣元会長と武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長の3人が、それぞれ社長、会長、あるいは柏崎刈羽原発所長、原子力立地本部長、あるいは福島第一原子力発電所技術部長、原子力・立地本部長などを歴任した。
 ただ単に東電取締役だったわけではない。経営と原子力安全の最高責任者だった。
 事故直後に勝俣会長は「原子力損害賠償法の第三条に基づく免責」を考えていた。これは、民事つまり損害賠償についての考え方だが、刑事裁判でも3被告は同様に主張するだろう。すなわち「異常な天災地変であり予見可能性はなかった」と。
 しかし検察審査会では異なる判断が行われた。
 東電は以前から福島県沖を含む太平洋岸で巨大地震とそれに伴う津波発生を予見できたし、実際にしていた。そのための対策も立案し、実行直前に経営判断により先送りした。
 結果として3.11で15mを超える津波により原子炉3基を炉心溶融に至らしめ、大量の放射性物質を拡散し多くの人々に甚大な影響を与えた。
 その内の一環として事故対応作業に伴う障害の発生と、避難住民に犠牲者を出した。 (下)に続く。
◎論点…「原発を止めておけば良かった」
    運転を止めていた4〜6号機は炉心溶融も使用済燃料の溶融も起こらなかった
 もちろん原発事故に伴う人的被害や物的損害は、津波によるものだけではない。しかし、あれもこれもと付け加えていけば、立証も膨大になるし何よりも時間が掛かりすぎる。
 そのため起訴状の論点は津波の予見可能性つまり津波の発生が予見できたか、その因果関係、さらに「結果回避可能性」に絞られている。
 「結果回避可能性」とはあまり聞き慣れないが、福島第一原発事故において最も端的に指摘できるのは「原発を止めておけば良かったではないか」であろう。
 現に、津波をかぶった1号機から6号機の内、運転を止めていた4〜6号機は炉心溶融も使用済燃料の溶融も起こらなかった。4号機の使用済燃料プールが危機的状況になったが、これは隣接する3号機の爆発と、4号機自体も爆発で破壊されたことが原因だ。この爆発原因は解明されたとは言い難いが、この際は水素爆発であったとしても結論には大きな違いはない。
 止めていたので最悪の事態を免れたのだから、全原発が止まっていたら、やはり大量の放射性物質の放出はなかったと考えられる。これなら津波対策について事故のわずか4日前に原子力安全・保安院に報告した時に、一緒に停止していたら事故は起きなかった。「たった4日で何が出来るのか」との反論は当たらない。
 津波の予見可能性は、もっと多くの資料が裁判所に提出されている。
 特に2008年には2月から3月にかけて数多くのメールが証拠として出されているが、その主張は想定津波が10mをはるかに超えるので、何らかの対策は必要、それは今村東北大学教授ら専門家の見解でも明確になってきているというもの。
 このことで、巨大津波対策として「10m盤」(注)に10mの高さの防潮堤を作るとのシミュレーションが4月に明確に示された。
 防潮堤建設には1000億円ちかい費用がかかることは、既に公表されている吉田調書の中で、当時は原子力管理部長だった吉田氏が、数値は曖昧にしつつ証言している。
 このことは当然、勝俣恒久会長にも「御前会議」において示され、その後、武藤副社長により凍結され、これだけの規模の津波対策は、土木学会の評価を待つとの決定がされた。これが「何もしないまま3.11に突入した」大きな図式の一コマである。
 こんな工事を始めれば当然原発を止めなければならない。運転開始40年を目前にしていた東電だが、地震の被害と度重なる不祥事で柏崎刈羽原発がまともに稼働できない状態にあった。創業以来最大の赤字決算となった2008年度第1四半期発表(7月)の時期と重なった、想定を超える津波の評価結果が、事態を最悪の方向に向かわせた。
 これが津波発生を予見し、解する可能性があったのに、原発を止めなければならないそれを怠った刑事責任の大きな背景に横たわる。

◎これからのこと…九州電力、四国電力に続き関西電力も原発の再稼働を強行した。それへの警告
 東電取締役に対する株主代表訴訟でも同様の「予見可能性」が争点となっている。東電への賠償訴訟も数多くある。これらにも大きな影響を与える。
 刑事裁判では、検察や検察審査会が捜査、審査した資料も証拠として提出される。証言は強制力を持って法廷で行われる。これらが他の裁判に与える影響は巨大だ。
 さらに、裁判所から外に出て考えることも大事だ。
 現在、九州電力、四国電力に続き関西電力も原発の再稼働を強行した。これら原発で事故が起きれば、厳しく刑事責任が問われることになれば、それぞれの電力会社の取締役に対しては、安易に再稼動をすることに対して大きなブレーキとして働くであろう。
 また、国の原発政策や原子力損害賠償法などの規定についても大きな問題として提起される。
 福島第一原発も国の審査を通過して運転してきたのだから、国のお墨付きが有ったと言える。しかしそれでも事故を起こせば刑事責任が問われることになる。国の審査を通過したから安全性が確保されるとは、刑事責任においても言えなくなる。
 これらは原発の運転を容認する自治体への大きな警告になるだろう。
 原発の再稼働、新増設、再処理工場などの核燃料サイクル施設の稼働を止めるためにも、この裁判は重要だ。

(注)「10m盤」 福島第一原発1〜4号機の原子炉建屋とタービン建屋が建つ海抜10メートルの高さの敷地。 ※『月刊たんぽぽニュース2017年7月号に掲載された原稿』

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