【記事57660】<伊方3号機停止認めず>車ない住民「死を待つしか」(毎日新聞2017年7月21日)
 
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<伊方3号機停止認めず>車ない住民「死を待つしか」

 稼働中の四国電力伊方原発3号機(愛媛県伊方町)について、松山地裁は21日、同県の住民11人が運転差し止めを求めた仮処分の申し立てを却下した。
 「裁判官には人の命を守る判断をしてもらいたかった」
 伊方原発から西に約20キロ、伊予灘を望む愛媛県伊方町松に住む山下長松さん(86)、トメ子さん(86)夫妻は、原発運転差し止めの申し立てを却下した松山地裁の決定を伝えるテレビ画面を見つめ、静かに語った。
 県の避難計画では、伊方原発で重大事故が起きた際、原発以西の住人は状況に応じて船で愛媛県内外に避難すると想定。山下夫妻の自宅から港までは、峠を越えて車で約20分かかるが、自家用車はなく、「事故が起きればここで死を待つしかない」。
 避難計画に関連し、久保井恵子裁判長は決定の中で、継続した訓練の必要性や課題が見つかった際の見直しを求めた。伊方町の高門清彦町長は「司法判断を厳粛に受け止める」とした上で、避難行動計画は「訓練によって検証、反省し、より良いものに改善する努力を続けたい」とした。
 申立人や弁護団からは、広島地裁などに続き申し立てが繰り返し退けられたことに怒りの声が上がった。
 大分地裁に仮処分申請中の中山田さつきさん(63)=大分県杵築市=は地裁前で「不当決定」の垂れ幕を見て、「本当に残念。司法は『福島』を忘れたのか。事故をなぜ教訓にしないのか」と肩を落とした。
 各地の原発訴訟に関わってきた河合弘之弁護士は「新規制基準は世界最高水準という論理で、四電の主張をそのまま認めた」と批判。申立人の松浦秀人さん(71)は「電力会社に『忖度(そんたく)』した決定だった」と皮肉った。 一方、町内で食堂を経営する高齢男性は「原発の運転が停止すれば、町の経済も止まるので、停止せずに良かった」と話した。【成松秋穂、山口桂子】

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