【記事41310】川内原発差し止め認めず 割れる司法判断にも課題(福井新聞2016年4月7日)
 
参照元
川内原発差し止め認めず 割れる司法判断にも課題


 九州電力川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)の周辺住民らが再稼働差し止めを求めた仮処分申し立ての即時抗告審で、福岡高裁宮崎支部は、申し立てを退ける決定をした。昨年4月の鹿児島地裁決定と同様の判断である。

 3月には大津地裁が関西電力高浜原発3、4号機の差し止め仮処分決定を出している。原子力規制委員会の新規制基準に基づき再稼働した原発の司法判断が高浜と川内原発で正反対に分かれた。原子力政策に与える影響や混乱は大きい。

 住民が抗告すれば最高裁の判断を仰ぐことになる。

 最高裁は1992年、四国電力伊方原発訴訟の判決で、安全性に関し専門技術的な判断に基づく国に広い裁量権を与え、立証責任は国や電力会社にあるとの考え方を示した。昨年12月の福井地裁異議審や鹿児島地裁による仮処分申し立ての決定でも最高裁判決を踏襲する判断を示した。

 原発訴訟は増える一方だ。最高裁は研修を行っているが、司法判断を困難にしているのは「過酷事故は起きない」という楽観を覆した2011年の東京電力福島第1原発事故である。

 規制委の新基準は政府が「世界一厳しい」と強調し再稼働を進めるが、国民の間には安全への不安と不信感が根強い。市民の視点に立った司法判断がなされるのも不思議ではない。

 今回の抗告審は火山という特殊要因を除けば他の原発審理での争点と重なる。決定理由で「新基準は不合理とは言えない」と判断。火山の危険性にも「破局的噴火の可能性は極めて低頻度」とした。避難計画は「市町村など行政の責務」とし「実効性や合理性に問題点があるとしても、それだけで住民の人格権を違法に侵害する恐れがあるとは言えない」と見極めた。

 新基準を全面的に是認した昨年4月の鹿児島地裁決定に比べれば、「噴火の時期や規模を的確に予測できるとの規制委の前提は不合理」と批判。避難計画でも住民側の主張に一定の理解を示すなど慎重な判断を加えている。ただ、原発の安全性を行政判断に委ねた最高裁判決の範ちゅうからは出ていない。

 国、電力の方向に沿って進む川内原発。これに対し高浜原発をめぐる司法判断はあまりに落差がありはしないか。昨年4月、福井地裁が運転差し止め仮処分決定、同12月の異議審で別の裁判長が再稼働を容認、今年3月の大津地裁では運転差し止めを命じる仮処分決定で、再稼働を始めたばかりの原発を停止させた。

 特に運転を認めなかった2決定は安全対策を全否定したに等しく、昨年4月の福井地裁は「ゼロリスク」を求めた。大津地裁は電力側の立証責任を要求し、広域化する避難計画は「国主導で策定されるべき」と指摘した点が注目される。

 政府や規制当局、電力側が多額の経費と時間をかけた原発の安全対策が、一地裁の裁判官によって否定される現行の司法制度に経済界から反発の声が上がる。

 だが、立ちはだかるのは三権分立の壁や「裁判官独立の原則」だけではない。5年たっても収束しない福島の過酷な現状とさらに高まる災害リスクではないか

KEY_WORD:SENDAI_:_