【記事41270】「社会通念」盾に安全軽視 川内原発停止認めぬ決定 高裁支部 災害リスク「無視し得る」(東京新聞2016年4月7日)
 
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「社会通念」盾に安全軽視 川内原発停止認めぬ決定 高裁支部 災害リスク「無視し得る」


またも異なる司法判断をもたらしたのは「社会通念」という新しい物差しだった。九州電力川内(せんだい)原発1、2号機(鹿児島県薩摩川内市)の運転差し止めを認めなかった福岡高裁宮崎支部の決定。稼働中の関西電力高浜原発(福井県高浜町)を停止させた三月の大津地裁決定とは正反対となり、福島第一原発事故以降の原発をめぐる司法判断の揺れがあらためて際立った。 (谷悠己)=決定要旨(7面)社説(5面)

 ◆独自の理論
「これまで聞いたことのない独自の理論だ」
宮崎市内で開いた報告集会で、森雅美弁護団長は何度も苦笑した。
決定理由は、原発の安全性の判断は「どの程度の危険性なら容認するかの社会通念を基準にするしかない」と指摘。巨大な火山噴火のように影響は極めて深刻でも発生の可能性が低い災害は「社会通念上、無視し得る」との考えを示した。

脱原発弁護団全国連絡会(東京)によると、他の原発訴訟でこれほど「社会通念」が押し出された判断はない。高浜仮処分申請の弁護団長で裁判官出身の井戸謙一弁護士は「安全性の判断で社会通念を基準にすることはあってもいいが、決定は一般建築で火山災害発生の確率が考慮されていない点を『社会通念』の根拠にするなど、方法論があまりにも間違っている」と憤った。

 ◆判例を無視
「こんな判断枠組みを取るとは、びっくりした」
報告集会に出席していた宮崎市在住の元裁判官、海保寛さん宅らが指摘するのは、判例との相違だ。一九九三年、大阪地裁の裁判長として高浜2号機運転差し止め訴訟で住民敗訴の判決を出したが、その際にならったのが四国電力伊方原発訴訟の最高裁判決(九二年)。他の訴訟でも何度も用いられた判断の枠組みはこうだ。

「原発の安全性は、ほとんどの資料を持つ国や電力会社がまず立証すべきで、立証が尽くされない場合は審査基準に誤りがあると推認される」

大津地裁決定はこれに沿って新規制基準の合理性を否定した。

宮崎支部決定も新基準に基づき策定された「火山影響評価ガイド」について「噴火時期が事前に的確に予測でさることを前提としている点で不合理だと言わざるを得ない」とし、住民側の主張を認めている。その一方で、九電側の立証は「相当の棋拠、資料に基づけば足りる」とした。伊方判例には明確には触れておらず、弁護団からは「最高裁の判例を無視した」「他の(原発)裁判への影響は少ない」との声が出た。

  ◆にじむ希望
弁護団は、最高裁に特別抗告をするか、決めていない。全国連絡会の共同代表でもある海渡雄一弁護士は「どのフィールドが最も効果的か、十分に見極める必要がある」と説明する。

「伊方判例に反する」として抗告するのは可能だが、重大な法令違反や事実誤認が無い限り、最高裁で差し止め決定を得るのは難しい。鹿児島地裁で係争中の本訴訟にかけるか、隣接する宮崎や熊本地裁への仮処分申し立ても含め最善策を選ぶという。

住民側の主張を認める記述もあった判決文。司法はまだ揺れている。「単純に私たちを負かしたいならここまで書く必要はない。他の裁判でも有効利用できる認定がないか探していく」。不満げな表情は崩さなかったが、海渡弁護士が力強く言った。

(図)争点に対する主な判断
(図)原発差し止めをめぐる近年の主な司法判断

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