【記事10232】火攻め、水攻めの新潟 県営アパートも横倒し 黒煙・濁水に逃げまどう 軟弱な新潟の地盤 久田博士らに聞く 高層ビルほど弱い 化学消防隊が急行 油タンク火事 耐震性が問題 一瞬沈む空港ターミナル 決死の脱出者の話 地割れに吸い込まれる 酒田で女学生(毎日新聞1964年6月17日)
 
 

※以下は上記本文中から重要と思われるヶ所を抜粋し、テキスト化したものである

【新潟で浦野記者】夜空にたちのぼる”黒いキノコ雲”。黒煙の帯の幅は1000メートルはあろうか。昭和石油の石油タンクがふきあげる煙だ。その下で溶鉱炉の火のようにはげしい炎がもえつづける。新潟市に一歩足を踏み入れて感じたことは、大自然の力の前には、あまりにももろい人間の営みだった。
(中略)
化学消防隊が急行
油タンク火事 耐震性に問題

【新潟】新潟県警の調べによると、新潟市の昭和石油タンクの火災原因は、地震で石油タンクの上のふたが動き、その摩擦のため起きたもので、放置すれば二日間は燃え続けるとみられている。またこのタンクから約50メートル離れたところに水素ガスタンク1基があり、これに引火すると1000メートル四方が危険となるため、県警は住民1300人を避難させるとともに消防庁に化学消防隊の派遣を要請した。
(中略)
 なお、こんどの火災について耐震工学界の権威、竹山謙三郎工学博士(前建設省建築研究所長)はつぎのように語っている。
 石油関連工業は最近急に脚光をあびた産業だが、外国から直輸入の技術だけに地震国日本の現実に合わない点があるのではないか。とくに川崎などのように人口密集地域に石油コンビナートが建設されるという現実も考えて、石油業界でも耐震という問題は再検討の必要がある。
(中間)
地割れに吸い込まれる
酒田で女学生

【酒田】山形県庄内平野の海岸線では深さ2メートルの地割れや地盤沈下の被害が続出した。
 最上川ぞいの酒田市立第三中学校では昼休みで校庭で遊んでいた2年2組、岡部京子さん(15)=同市若竹町=がふき出した地下水がひく一瞬、地割れに吸い込まれ首まで土中に埋まり先生たちの必死の救出作業にもかかわらずグラグラとゆれる地面に押しつぶされて即死した。
 夕刻になっても余震はおさまらず、市民たちは不安の一夜を過ごした。

軟弱な新潟の地盤
久田博士らに聞く 高層ビルほど弱い

”新潟地震”は関東大震災につぐ規模で、家屋や橋など建造物の被害がきわめて大きかった。毎日新聞社は、17日早朝現地に飛んで調査を行う建設省建築研究所第3研究部長、久田俊彦工学博士を招き、本社稲野社会部長(東京)から建造物災害の原因や今後の対策などを聞くとともに、東大地震研究所の専門家に災害の背景をさぐってもらった。

ーまず、こんどの新潟地震の規模と特徴などについて。
久田 規模(マグニチュード)は関東大震災が7.9、福井地震が7.3、新潟地震は7.7で、福井地震よりは関東大震災に近い規模のものだ。もっともマグニチュードの大きさと被災地の震度とは別だが、新潟市内での震度5というのは関東大震災当時の東京山手地区の震度と同じぐらい強い。
 (東大地震研究所の河角広教授=応用地震=によると日本列島は丸ごと世界の地震帯にはまり込んでいるが、新潟地震の震源地はその中の日本海岸ぞいに走る内側地震帯に属している。一般にいって裏日本の内側地震帯に起こる地震は衝撃は強いが中型のものが多く、マグニチュード8を超える超大型はメッタに発生しないとされている。こんどの新潟地震は、裏日本のものとしては規模といい被害といい例外的な大型だったといえる)
久田 石油会社の大きな火事はあったが、地震直後の民家火事がなかったことは不幸中の幸いといえよう。それと同時に橋がこわれ、鉄筋コンクリート建のアパートがこわれたり、ビルが傾いたりしていることが目につく。新潟市周辺は厚い沖(ちゅう)積層で、同氏は構造物にとっては日本でも有数の地盤の悪い都市のひとつだ。このため地割れがひどく、コンクリート建築が簡単に傾いたりする。低いガッチリした建物に比べて、高いビルに対する被害が大きくなるのが特徴だ。この点では地盤の悪いアラスカ地震とよく似ている。
(この点について東大地震研の森本良平教授=地学=も、新潟地方は油田地帯の特徴として地表のデコボコが厳しく、地すべりなども起こりやすい、しゅう曲構造になっている。また天然ガスなどの採取が激しく、地盤沈下に拍車をかけたなど、地盤に弱い条件が重なっていたという)
ー今度、木造住宅などを再建する場合はどうしたらよいか。
久田 軽い屋根にすることと、筋かいをいれてガッチリした構造にするとともに、基礎を一体のコンクリート造りにすることが第一だ。重いカワラ屋根などより軽いスレートや鉄板ぶきの屋根などにするほうがよい。
ー橋も大分やられている
久田 昭和大橋の地盤はやわらかい層が50−60メートルあるところで橋脚の?函(かん)が堅い地盤まで届いていたかどうかを調べる必要がある。
ー高層ビルが傾いたり倒れたりしているが。
久田 これも新潟の地盤の悪さが最大の原因だろう。東京などは上層はやわらかいが20メートルほど下には堅い地盤がある。ところが新潟は上から下までやわらかい地盤ばかり。耐震法は、鋼管抗(こう)を堅い地盤まで打ち込んで、その上にビルを建てる方法だ。
(地震研の高橋竜太郎教授=津波・地盤工学=は、震源地とみられる新潟沖は内陸地震帯の”枝”とみられる信濃川地震帯の分岐点に当たるのではないかと推理する。この付近は天保4年(1833年)以来この150年間は大きな地震の震源地となったことはない。同教授は「これまで眠っていたこの内陸地震帯の空白地帯が活動をはじめるのではないか」という。しかし一方、萩原尊礼教授=地震変動=は「一度大地震が起こると、その地点では数10年の間大きな地震が再発しないことが経験的に知られている」といっている。また、地震の予知は地震国日本の悲願だが、3年前に地震研が中心となって発足した地震予研グループも予算措置その他が不十分なため名ばかり状態、と荻原教授はいっている)

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