[2021_05_27_09]「WoW!Korea記事の紹介」についてのコメント 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)(たんぽぽ舎2021年5月27日)
 
参照元
「WoW!Korea記事の紹介」についてのコメント 山崎久隆(たんぽぽ舎共同代表)

 「WoW!Koreaの記事の紹介」がありましたが、その内容に疑義があるとの意見がありました。
 たんぽぽ舎の見解をまとめたわけではありませんが、私の意見として、この記事についてコメントします。
 この記事を紹介した文章は、たんぽぽ舎メルマガ5/18【TMM:No4200】に掲載されています。

【TMM:No4200】
★3.日本原発の汚染処理水の海洋放出に反発し続ける韓国、その真の意図はどこにあるのか?…科学的・統計的な事実をありのまま明かし国民がそれに基づいて 冷静な判断ができるように積極的に行動しない限り、信頼を失った政権は滅びることが人類の歴史である メルマガ読者からの原発等情報1つ(抜粋)  黒木和也 (宮崎県在住)
  5/17(月)16:31配信「WoW!Korea」
https://news.yahoo.co.jp/articles/50c175ff089f0dba652100b07f92179860a8264a

◎ 記事では、日本政府が汚染処理水の海洋放出を決定したことを受けて、チェジュ市が友好協力関係にある日本の4市に対し、懸念を伝える書簡を送ったことについて批判的に取り上げている。
 特に問題視しているのは、トリチウムの放出量についてで、韓国に存在する2つの原発、コリ原発とウォルソン原発の排水に含まれるトリチウムが、福島第一原発が計画している年間22兆ベクレルの放出量に対してずっと多いことだ。
 記事では「コリ(古里)原発から2018年に海洋などに向けて50兆ベクレル、約80キロ離れたウォルソン(月城)原発からは25兆ベクレルを放出している。」と指摘し「済州市の担当者は、「1,300km距離の22兆ベクレル」を心配して書簡を送りつけるぐらいならば、まずは「300km距離の25兆ベクレル」を心配するような当たり前の科学的な判断をした方が正常であろう。」と批判する。
 確かに、そこだけを比較すれば外見的には、そう見える。日本でも海外からの反応に対して、盛んに、その点を指摘し「反論した気になっている」者がいる。

◎ これには3つ指摘しなければならない。

 ☆まず、韓国民が自国の原発の放射性物質排出に対して何の活動もしていないのであれば、その点を明確化して問題提起すべきだが、実際には、これまで放射性物質の処分場建設、原発の新増設や再稼働などについて極めて強力な市民運動がある。
 韓国でも日本と同様、反原発、脱原発の取り組みはあることを指摘する。
 その上で、韓国原発に対する韓国の市民の受け止めと意見を無視して、「原発から大量のトリチウムが放出されているが問題は無い」と受け止めているかの言い方は、そもそも自国民に失礼であろう。

 ☆2番目としては、通常運転中の原発が一定の処理を経て放出する「処理水」と、福島第一原発の事故で様々な放射性物質に汚染され、ALPSで処理した水とでは、性質が異なることを無視している。
 トリチウムの量だけを取り出して比較すれば記事の通りかもしれない。しかしその他の放射性物質を含むか含まないかを精査せずに比較しても議論はかみ合わない。

 ☆3番目は、そもそもトリチウムの危険性についてはコンセンサスはない。
 これは日本国内でもそうだし、国際的にもそうだ。通常運転時のトリチウム放出について、カナダでもフランスでも強い懸念が示されてきている。
 トリチウムの人に対する影響度合いについては、個人差が極めて大きいと思われる。また、リスクをどのように考えるかも個人差が大きい。
 海洋放出を計画する水には1リットル当たり数百ベクレルのトリチウムが含まれる想定だが、人が受ける影響度合いが明確ではない以上、このことを懸念するのは当然である。近いか遠いかは別の問題だろう。

◎ 「リスクベネフィット論」という考え方があるが、これは「一定のリスクを取ってもそれを上回る便益がある」というもの。
 薬を例に取れば、飲むことで受けるベネフィット(治療効果)がリスク(副作用や副反応などの悪影響)を上回る場合には飲もうと判断する。というふうに使う。
 トリチウムの海洋放出をこれで考えると、ベネフィットは日本において福島のリスク低減と廃炉の推進(事実かどうかは別にしても)ということになるが、これは韓国民には何の関係もない。
 しかし韓国の原発についてならば、韓国の電力需要を賄うというベネフィットはある。リスクが同じならば日本の海洋放出には反対するが自国のそれには反対しないとの考えも成り立つ。
 同様のことは日本でもおこなっている。
 以前、ロシアが軍事用放射性廃棄物を日本海に投棄しようとした事件があった。ロシアにとっては自国内の廃棄物を処分できるベネフィットがあるが、日本にとっては何の利益もないばかりか海洋汚染によるリスクが迫っていた。
 そこで日本は、海洋投棄をしなくてもすむようロシアに「すずらん」という名の放射性廃棄物処分装置を供与した。
 さて、韓国は日本に「すずらん」を供与することは出来そうもないが、反対の声を伝えることは出来る。
 そういう文脈で考えれば、日本と韓国の市民が双方の放射性物質の海洋投棄にそれぞれ反対するのは至極当然のことではないだろうか。

◎ 「WoW!Korea」の記事は、日本の実情や議論の内容もよく調べているようだが、ベースのところ、特に低レベル放射性物質の環境影響や人体への影響について、国や原子力推進派の築いてきた考え方に依っている。そのため話がかみ合わないのである。
 「科学的・統計的な事実をありのまま明かし、国民がそれに基づいて冷静な判断ができるように積極的に行動しない限り、信頼を失った政権は滅びることが人類の歴史である。」と結んでいる。
 そのとおりである。
 しかし、これを言うべきは、国や電力、さらには国連科学委員会やIAEA・ICRPなどの「権威ある」とされる機関に対してではないだろうか。
 それらが作った基準が本当に正しいのかを検証すべきである。
KEY_WORD:汚染水_:FUKU1_: