「北海道地震、大阪北部地震ほか」(島村英紀さん講演)【 レジュメのみ 】


 
※編集者注:当記事は島村英紀さん講演のレジュメです。たんぽぽ舎メルマガへ連続投稿(テキスト)を地震がよくわかる会がまとめました。それに対して、図及び参考文献を付加し、文中の用語(地震等)に対しては当会で作成した記事一覧へのリンクも付加しました。よろしかったらご覧ください。

 
●日本に起きる地震には二種類
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 日本に起きる地震には二種類があり、ひとつは海溝型地震、もうひとつは内陸直下型地震である。
 前者には東日本大震災(2011年)を起こしたマグニチュード(M)9.0 の東北地方太平洋沖地震とか、恐れられている南海トラフ地震がある。後者には、この9月6日に起きた北海道胆振(いぶり)東部地震(M6.7)や6月18日に起きたM6.1の大阪北部地震がある。
 この二種類の地震は起きるメカニズムが違う。
 海溝型地震は、日本列島を載せているプレート(北米プレートやユーラシアプレート)に海洋プレート(太平洋プレートやフィリピン海プレート)が衝突してくることで起きるので、プレートが毎年4〜8センチという速さで動いてくる分だけ、しだいに地震を起こすエネルギーが溜まっていっている。
 そして岩が我慢できる限界を越えたら大地震が起きる。その意味では、毎年地震に近づいていることは確かなことである。起きる場所は海溝の近くに限定される。多くの場合、太平洋岸の沖である。
 ただし、政府が言う30年以内に80%とかいう数字そのものは、あてにならない。私もシミュレーションを何度もしたことがあるが、入力があいまいであてにならなければ、出力もあてにはならない。将来の地震予測は、入力そのものがあいまいなのだ。結果として出てくる数字はまったくあてにしない方がいい。
 他方、内陸直下型地震は海溝型地震とは違う。これは日本列島を載せているプレートがねじれたり、ゆがんだりして起きるもので、どこに起きるのか、いつ起きるのかは、いまの学問では分からない。
 つまり、日本のどこにでも起きる可能性があるのが内陸直下型地震なのである。
 この内陸直下型地震は、地震の規模(マグニチュード)からいえば、海溝型地震よりは小さく、M7クラスがせいぜいである。(Mが1違えば、地震のエネルギーは32倍、2違えば1000倍も違う)。
 しかし、人々が住む直下で起きるために、たとえ小さめのマグニチュードでも、現地での震度は日本の震度階で最大の7になり、甚大な被害を生むことがある。
 たとえば阪神淡路大震災1995年。地震の名前としては兵庫県南部地震)は震度7を記録して、6400人を超える犠牲者を生んでしまった。この地震のMは7.3だった。
 間の悪いことに、内陸直下型地震は人間が住んでいるすぐ下で起きる。このため、地震の規模のわりに被害が大きくなる。震度7になった2018年の北海道胆振東部地震や震度6弱だった大阪北部地震でも、内陸直下型地震ゆえに、大きな被害を生んだ。

 
●信用できない「日本列島地震危険地図」
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 この二種類の地震はまったく別のものだ。海溝型地震は「起きる場所が決まっていて、いずれは起きる」ものだが、内陸直下型地震は「日本のどこで起きるか、そもそも、そこで起きるかどうか」が分からない地震なのである。
 政府が予想して毎年発表している「日本列島地震危険地図」というものがある。毎年春に発表されているが、そこでは「地震危険度」を政府の地震調査委員会が見積もって色分けしている。黄色がもっとも地震危険度が低いところ、赤やえんじが地震危険度が高いところで、南海トラフ地震が起きると影響が大きい西日本の太平洋岸や首都圏地震が心配な首都圏が地震危険度が高いところとされている。 この地図に基づいて動いている政府や自治体にとっては、ノーマークの地震が相次ぐことになっている。
 北海道胆振東部地震も、大阪北部地震も黄色のところ、つまり政府にとって起きるはずのないところで起きてしまった。
 この種の地図が作られるようになったのは阪神淡路大震災以後だが(それと同時に地震予知関連の組織は地震調査研究に変わった)、その後に起きた大地震、たとえば 2000 年の鳥取県西部地震(M7.3)、2004年の新潟県中越地震(M6.8)、2005 年の福岡県西方沖地震(M7.0)、2005年の首都圏を直下型地震として襲った千葉県北西部の地震(M6.0)、2007年の能登半島地震(M6.9)と中越沖地震(M6.8)、2008年の岩手・宮城内陸地震(M7.2)、2016年の熊本地震(M6.5 とM7.3。両方とも震度7)などはすべて、ノーマークだったところで起きてしまった内陸直下型地震である。
 なお、千葉県北西部の地震は首都圏でエレベーターが64000台も停止して多くの人が閉じ込められたほか、交通が止まるなど、首都圏に大混乱を起こした地震である。
 図は東大にいた地震学者ロバート・ゲラーさんが「日本列島地震危険地図」に2011年までの地震を書き足した図で、近年に起きた地震のすべてが黄色のところで起きたことを示している。このゲラーさんの地図にはないが、熊本地震も、大阪北部地震北海道胆振東部地震も、黄色のところだった。
 それぞれの内陸直下型地震は、それぞれの地元では甚大な被害を生んだ。たとえば2007年に起きた中越沖地震(M6.8)では柏崎刈羽原発が大被害を受けて、11年たったいまでも止まったままだ。
 政府の地震調査委員会によれば、熊本での地震の発生確率は30年以内に0.9%以下だった。つまり、けして高くない数値だったのに、大地震が起きてしまった。
 問題はこの種の地図が、一般には「安心情報」として受けとられてしまうことだ。つまり黄色のところは「地震が起きない」ところではなくて、「起きるかどうか、いまの学問では分からない」ところなのである。
 北海道胆振東部地震も、政府が発表する「地震が起きる確率」が30年以内の発生確率は0.2%以下とごく低いところで起きた。しかも、既知の活断層ではない、未知の断層で起きた地震だった。私が前から警告しているように、既知の活断層だけを注意していれば、いいというものではない。
※編集者注:レジュメにあった図は英文でしたが、日本語表記の「日本の地震学、改革の時」(ロバート・ゲラー氏)のリアリティチェックという図に変更しました。あしからずご了承ください。

 
●海溝型の大地震にも大きな問題が
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 海溝型の大地震についても問題が多い。特定の海溝型地震がクローズアップされることによって、「次に起きる大地震」が、この特定の海溝型地震に違いない、という刷り込みが行われることだ。
 阪神淡路大震災の前には、1976年に始まった「東海地震騒ぎ」があった。次に起きる大地震は東海地震に違いない、と政府も自治体も、そして一般人も思い込んだときに、「関西には地震はない」はずのところに襲ってきたのが阪神淡路大震災だった。
 今回も、似た状況にあった。北海道南東沖の巨大な海溝型地震が起きる可能性が高い、と政府が発表している足元で、まったく別の内陸直下型地震、北海道胆振東部地震が起きてしまったのだ。
 これからも、南海トラフ地震が「次に起きる大地震」ではないかも知れない。海溝型地震はいずれは起きる。
 しかし、現在の学問では、いつ起きるか分からない。その間に大きな内陸直下型地震が大被害を生んでしまう可能性が低くはないのである。

 
●「地震が起きる理由」が多い首都圏
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 首都圏では、この海溝型地震も、内陸直下型地震も両方が起きる、という地震学的にはとても特異な場所である。海溝型地震が陸の下で起きる、という特殊な場所は、日本では首都圏と、あとは静岡県の清水、静岡近辺の二ヶ所だけしかない。
 首都圏はもともと地震が多い場所だ。それは「地震が多い理由」があるからだ。
 江戸時代以前から「要石(かなめいし)」の伝説があり、地震を起こすと信じられてきた、地下に住む巨大ナマズの頭と尻尾を重ねて、その上に石を置いたという「要石(かなめいし)」が茨城県の鹿島神宮と千葉県の香取神宮の境内にあるほどで、昔から地震が多いことが知られていた。
 いまでも、首都圏で人体に感じる地震(有感地震)は年に数十回もあり、日本でも多い方だ。これに対して、札幌も福岡も、年1〜2回しかない。
 都の防災委員会は首都圏に起きる地震として四つのパターンを想定している。

 1)フィリピン海プレートが起こす内陸直下型地震、
 2)立川断層という活断層が起こす内陸直下型地震、
 3)フィリピン海プレートと北米プレートの間で起きる海溝型地震、
 そして 4)内陸直下型地震のひとつである東京湾北部地震だ。
 3)が海溝型地震、あとの3つは内陸直下型地震である。

 どれも局地的には震度7になる可能性があり、首都圏に甚大な被害をもたらす可能性がある。震度7とは、日本の震度でもっとも高い震度で、いわば青天井である。これより上の震度はない。
 だが、この想定のそれぞれには、地震学的な問題がある。たとえば 2)の活断層は、「地震を起こした地震断層が浅くて地表に見えているもの」という活断層の定義からいえば、3〜4kmもの厚い堆積層をかぶっている首都圏では、たとえ地下に活断層があっても見えない。
 つまり「活断層がない」ことになっている。東京でも西部に行くほど堆積層が薄くなって、たまたま見えてくるのが立川断層なのである。
 立川断層は埼玉県飯能市名栗から立川を通って東京都府中市まで延びている断層で、もしこれが地震を起こせばマグニチュード7クラスになる。
 この活断層のまわりには、昔と違って、今ではびっしり住宅が建ち並んでしまっているところだ。それゆえ、もしこの活断層が地震を起こせば、大きな被害を生じることにもなりかねない。
 だが、活断層の定義から明らかなように、首都圏の地下では「見えない活断層」あるいは「定義上は活断層ではない地震断層」が、ほかにも多く隠れている可能性が高い。
 たとえば1855年に江戸を襲った安政江戸地震の震源は隅田川の河口近くだったが、ここには、いくら調べても活断層はない。
 だが、この地震は明らかに内陸直下型地震で、内陸地震としては日本最大の1万人以上の犠牲者を生んでしまった。現地は柔らかい堆積層におおわれていて、地下の岩盤の中にある割れ目の痕跡は地表にはない。
 これからも、この安政江戸地震のような、「見えていない活断層」が地震を起こすことは、十分に考えられる。
 そして 4)は、ほかの3つのパターンだと東京23区の中心部や東部に震度が大きい地区が集中するわけではないので、人々の油断を誘いかねないというので、「政治的な理由」から作って入れた震源だ。
 ここで内陸直下型地震が起きれば、たしかに東京23区の中心部や東部で震度が大きくなる。最大で7に達する。だが、ここで地震が起きるという地震学的な根拠はなにもない。
 そして、この地震だけが東京23区の中心部や東部で想定されているために、この想定が「一人歩き」してしまう危険がすでに現れている。
 たとえば足立区のある橋は、「東京湾北部の地震」で想定される震度には耐えられる、という。だが、もしかしたら、将来の地震は、足立区にもっと近いかも知れないのだ。
 つまり、内陸直下型地震は、将来、どこで起きるかを今の地震学で予想することは出来ないのである。首都圏を襲う地震の厄介さは、ここにある。
 どの種類の地震も、首都圏に大きな被害をもたらす可能性がある。人口密度が高く、そのうえ、木造住宅密集地帯を多く抱えている首都圏では、将来の地震被害がとても大きいものになることが心配されている。
 じつは阪神淡路大震災も、その5年後に起きた鳥取県西部地震も、同じマグニチュード7.3で同じような内陸直下型地震だった。
 しかし、被害のありさまは大きく違った。これには地盤の善し悪しもあるが、都会ほど地震に弱いということを如実に表している。
 「次に」日本列島で起きる大地震を予測することは現在の学問では不可能である。1978年に大規模地震対策特別措置法(大震法)が作られて東海地震が地震予知できることになった以後、「次に起きる」地震は東海地震に違いない、と多くの人が思っていたときに起きたのは阪神淡路大震災だった。
 地震予知は出来ない、ということを政府も認めざるをえなくなったが、大震法そのものは残っている。このため、矛盾を含んだ多くの問題が残っている。
 2016年の熊本地震も、まったく予想できないところで起きた。九州の人たちにとって最大の自然災害は毎年のように襲って来る台風で、地震は想定外だった。
 ちなみに 2005年に起きた福岡県西方沖地震は、日本史上、一度も地震が起きたことがないところで起きた。九州も、地元の人が信じているほど、地震が少ないわけではない。
 過去に起きたことが日本史上で知られている地震だけを拠り所にしている政府の「将来の地震危険度」はじつは危ないものなのである。

 
●東日本大震災後の「変化」
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 東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)は東日本全体を載せたまま日本列島が載っている基盤岩を東南方向に大きく動かしてしまった。
 正確な測定にはGPSを使うので陸上部だけの測定しか出来ていないが、宮城県の牡鹿半島では5.4m、首都圏でも30〜40cmもずれた。このために、各所の基盤岩に生まれたひずみが地震リスクを高めている。
 いままで述べてきたように内陸直下型地震は、日本のどこを襲うか、まったく分からない。いままでも、予想もされなかったところで起きてきた。
 海溝型地震は一般には日本の沖で起きるが、首都圏だけが海溝型地震が「直下」で起きてしまうという地理的な構図になっている。このため、いままでも関東地震(1923年)や元禄関東地震(1703年)といった海溝型地震が首都圏を襲った。
 このうち元禄関東地震のほうが関東地震よりも地震としては大きく、小田原では津波による大被害が出たほか、海から2kmも離れている鎌倉の鶴ヶ丘八幡宮も二の鳥居まで津波に襲われた。マグニチュードは関東地震(M7.9)を超えたM8.1〜8.2くらいだったと考えられている。死者6700人、壊れたり津波で流された家は28000軒にものぼった。地震は繰り返すが、一回ごとに違う。まったくの同じ地震の繰り返しではない。
 内陸直下型地震はくり返しが分からないが、海溝型地震はくり返す。元禄関東地震関東地震とくり返してきた地震も、あと100年ほどは起こるまいと以前は思われていたのが、東北地方太平洋沖地震の影響で、もっと早まるかもしれないと思われはじめている。
 江戸時代から現在までの首都圏の地震活動を見ると、不思議なことに関東地震以来の90年間は異常に静かだったことが分かる。
 実は元禄関東地震のあとも首都圏では70年間、静かな期間が続いている。東日本大震災のあと、首都圏は約90年間の静穏期間が終わって、いわば「普通の」、つまりいままでよりは活発な地震活動に戻りつつあるのだろう。(了)


■参考文献(島村英紀の書いた最近の本)(※)
島村英紀『完全解説 日本の火山噴火』。秀和システム。2017年。1600円+税
島村英紀『富士山大爆発のすべて―いつ噴火してもおかしくない』。花伝社。2016年。1500円+税
島村英紀『地震と火山の基礎知識―生死を分ける 60話』。2015年。花伝社。1500円+税
島村英紀『火山入門ー日本誕生から破局噴火まで』NHK出版新書。2015年。740円+税
島村英紀『油断大敵! 生死を分ける地震の基礎知識 60』花伝社。2014年。1200円+税
島村英紀『日本人が知りたい巨大地震の疑問 50』サイエンス・アイ新書。2011年。952円+税

■島村英紀の連載
『夕刊フジ』に2013年5月からシリーズ「警戒せよ! 生死を分ける地震の基礎知識」を毎週木曜に連載(発行日は翌金曜日)。いま278回(12月13日)
(島村英紀さんのHP )

※編集者注:上記参考文献のリンク先は島村英紀さんのHP内にあります。各書籍の「前書き」、「後書き」、「書評」、「読者からの反応」等をまとめてありますので、参考になさってください。
 


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