【記事40020】東電旧経営陣 強制起訴 未曽有の災害 責任は 大津波試算、対策先送り Q&A 強制起訴 市民の判断で刑事裁判へ 福島第1原発の津波想定をめぐる経緯(東奥日報2016年3月1日)
 

※以下は上記本文中から重要と思われるヶ所を抜粋し、テキスト化したものである

 東京電力福島第1原発事故をめぐり、勝俣恒久元会長ら東電旧経営陣3人が強制起訴された。これまでの事故調査で、東電が大津波の試算をしながら、対策を先送りにした経緯が明らかになっているが、当事者から責任を認める姿勢はうかがえない。事故から5年。未曽有の原子力災害に対する責任の在り方があらためて問われる。
 
 政府の事故調査・検証委員会の報告書などによると、政府の地震調査研究推進本部が2002年にまとめた東北地方太平洋沖での津波地震に関する長期評価を踏まえ、東電は08年、明治三陸地震クラスの地震が福島県沖で発生した想定で、第1原発の津波被害を試算した。
 この時、得られたのは敷地南側で最大15.7メートルまで津波が遡上するという結果だった。この3年後、まさに同規模の津波が第l原発に到達することになる。
 「それは『うわあ』です」。試算当時、本店の原子力設備管理部長だった吉田昌郎元第1原発所長は、政府事故調の聴取に、初めて数字を聞いたときの印象をそう答えた。しかしあくまで最も厳しくなるように試算した結果だとして東電は対策に動かず、電力業界と関係の深い土木学会に「念のため」検討を依頼するにとどまった。
 
 把握せずと勝俣氏
 
 当時社長だった勝俣氏は12年5月、国会事故調の聴取で巨大津波の試算を知っていたかを問われ「私自身まで上がってきた話じゃない」と、あっさり否定した。
 08年は、前年の07年7月に新潟県中越沖地震で柏崎刈羽原発が被災し、対応に追われていた時期。地震で柏崎刈羽原発に生じた特別損失が二千数百億円、耐震強化工事の費用と合わせると四千数百億円に上ったという。
 所有する3原発の耐震費用を話し合う対策会議には、勝俣氏のほか、原子力・立地本部長だった武黒一郎元副社長、副本部長だった武藤栄元副社長らが出席した。
 吉田氏はこの会議で、津波対策の費用が別途必要となるとした上で「どれくらいのもの(津波)が来るか、来るかどうかも含め、土木学会にお願いしている。来るとなるとかなりの費用がかかる」と説明したという。
 「根拠が明確で合理性があれば、(対策は)当然していく」(武黒氏)、「具体的な波源(津波の発生源)のモデルについて、まとまった知見はなかった」(武藤氏)
 東電原子力部門の2人は国会事故調の聴取に、そう答えた。
 来るかどうか分からない津波への対策に金をかけることはできない−。
 地震対策に巨費をつぎ込まなければならない中、さらに数百億円規模を必要とする防潮堤建設は置き去りにされた。
 09年に専門家から869年の貞観津波も考慮すべきだとの指摘が出て、東電は最大9.2メートルとの計算も行ったが、やはり「学会に調査をお願いし、結論次第で動く」(勝俣氏)と対策を取らなかった。結局、東電が15.7メートルの試算の存在を原子力安全・保安院に報告したのは東日本大震災4日前の11年3月7日だった。
 
 「逃げていると思った」
 
 国会事故調の委員として勝俣氏らと向き合った福島県大熊町商工会の蜂須賀礼子会長は「『知らない、知らない』で通し、逃げていると思った。会社で起こしていることについての責任ある言葉がない」と振り返る。
 国会事故調の別の関係者は「勝俣民らの責任転嫁ぶりや判断能力の欠如は腹立たしく、情けないが、大企業サラリーマンの典型でもある」と冷ややかだ。
 蜂須賀さんは「(勝俣民らは)過去の人。今の社長、現場の人たちは、あのようになってはいけない」と話す。事故により避難生活を強いられている人たちの早期帰還に向け、今度こそ「責任と覚悟を持って仕事をしてもらいたい」と願う。
 
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